小説・漫画好きの感想ブログ

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「僕僕先生」仁木英之著

 時は唐代。
 若き王弁は父の財産に寄りかかり、学ばず、働かず、娶らず、ひたすら安逸を貪っていた。そんなある日、父の命で黄土山へと出かけた王弁は、そこでひとりの美少女と出会う。自らを僕僕と名乗るその少女、なんと何千何万年も生き続ける仙人で…不老不死にも飽きた辛辣な美少女仙人と、まだ生きる意味を知らない弱気な道楽青年が、五色の雲と駿馬を走らせ天地陰陽を大冒険。第18回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。
 
 なんて思わず、アマゾンの紹介レビューをもってきちゃいましたが、どこから褒めればいいのか迷うんですけれど、読むのが楽しかった一冊です。畠中恵さんの「しゃばけ」とか、ああいう感じの基本おおらかな主人公が出てくるのんびり暖かい感じの一冊なんですが、舞台が中国で、仙人たちが登場するということで余計に浮世離れした、あくせくしない長閑な春の気配のようなものが全編から溢れていて、読んでいるだけで春の陽当たりのいい公園の芝生で寝そべっているかのような心持ちになりました。
 あくまでまっすぐでストレートな王弁青年と、僕僕先生という仙人との旅物語は、素直に面白かったです。混沌のエピソードなどけっこう仙界冒険物語的な部分もあるんだけれど、基本なんだか気恥ずかしくなるくらいの青春まっさかりの主人公の気持ちが伝わってくるお話でした。
 いや、いいですよ、これ。
 中身はさておくにしても、文体がいいです。空気のように流れる文体といいましょうか、押し付けがましいところがまったくなくて、本当にさらりさらりと春風のように流れて行く文章が読んでいてとても気持ちよかったです。
 この前に紹介した「深淵のガランス」も手放しで褒めていましたが、万人向けという点ではこちらの方がよいくらいです。あちらが濃厚でエッジが立っていて圧倒的に強い、熱いエスプレッソだとすれば、こちらはさらりさらりとのどごしが良くてぽかぽかと身体が芯から暖まってくるような杏露酒のような感じです。←すいません、たとえがわかりにくいですね。
 このシリーズはこのあとも、「薄妃の恋」「胡蝶の失くし物」と続くようです。大変文庫化が楽しみなシリーズです。

僕僕先生

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