小説・漫画好きの感想ブログ

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「朱夏 警視庁強行犯係・樋口顕」 今野敏著

 本年50冊目の紹介本。

 妻という存在はどういうものなのだろうか。  
 普段は人様の家庭より仲良く過ごしているとは思っているものの、家族愛はあるけれど恋人としての愛情はもうないんじゃないかなと思っている主人公。彼は警視庁の中でも凶悪犯罪などを手がけるある意味いかにもな刑事なのに、人の目や評価が常に気になり、警視庁の中では珍しく人を押しのけるところがほとんどない男である。
 その彼の妻がある日、誘拐される。
 前述のような性格のため、誰かに恨まれるという事も仕事柄のわりにはあまりなく、どうして彼の妻が誘拐されたのかがわからない。誘拐犯からの連絡すらないので手がかりもなし。刑事としての経験から警察は三日ほどは動かないことを知っており、主人公の樋口は、前作「リオ」でコンビを組んだ氏家に頼み込んで二人で個人的に捜査を開始する。
 リミットは二日。二日以内に妻を取り戻し事件を解決したい。それすらも仕事や立場のためという体面がまずあることに中盤で気付き愕然とする樋口。だが、そうであっても、普段と違ってエゴや感情をストレートに出す樋口に、氏家は逆に好意を持つ。
 意外な真犯人のもとから、果たして妻を無事に取り戻せるのか。
 
 樋口さんのシリーズの第二作である。警察小説の形をかりた家族小説だという某ブログ主の卓見を知った上で読むとまさに家族小説で、樋口と妻の両者の性格や強さ、家族の絆がしっかりと描かれていてそご読みどころとなっている。離婚がごく普通に当たり前になっており、人と人との執着や家族としてのモラルが崩壊している今だからこそ、それが心地よい。

朱夏―警視庁強行犯係・樋口顕 (新潮文庫)

朱夏―警視庁強行犯係・樋口顕 (新潮文庫)