小説・漫画好きの感想ブログ

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「独白するユニバーサル横メルカトル」 平山夢明著

 テレビ番組の打ち切りが続くことに不況の恐ろしさが身にしみてくる昨今です。「あいのり」も終了「思いっきりいいテレビ」も終了(思いっきりはみのさんの時給が200万とかとんでもなく高すぎるらしいかららしいが)、「なるともっ」も終了。果たしてそんなに終了、打ち切りばかりでいいんでしょうか。とうとう「鳥人間コンテスト」も予算の都合上で打ち切り、今年のぶんは中止らしいし、なかなか大変です。
 さて。
 今日紹介するのは、そんな前振りとは全く関係がないスプラッタな短編集です。一応、何故だか「このミステリがすごい! 2007」の国内篇第一位になっていますが、どう考えてもミステリというよりは伝奇、ホラーのほうに比重が偏った短編集です。メルカトルときいてミステリと続けてきくと名探偵が登場するような気配がありますが、そうではなくてSF短篇も入ったホラーものです。平山夢明というと、自分的には1996年の「メルキオールの惨劇」というすごく才能を感じさせる異常作品を最後にその後は低空飛行している作家さんというイメージしかなく、ここ数年は完全にマークを外していた作家さんだったのですが、この「告白する横ユニバーサルメルカトル」はひさびさにまさに会心の一撃の作品で、この人の才能は枯れていなかったと証明するものであり、ちょっとまた読んでみようかと思いました。
 この人の作品の特徴は、とにかくグロテスクで、変質的で、そしてスプラッタでおぞましさへの嗜好の強さにあります。どの作品を見ても気持ちの悪さ、女性だったら下手したら夢に見たり戻しそうになったりするんじゃないかという描写、シーンが多数出て来ます。そこにあるのは、穢れ、淀み、腐敗といったものばかりです。同じホラーでも、津原泰水などは耽美に、美しいホラーです。端正に文章が整えられ、たとえ汚い言葉がでてきてもそれもまた退廃した美があります。が、こちらには歪んだという形容詞がまずきます。でも、それでも、いや、それなのに読ませます。
 このあたりがちょっと他にない凄い才能かなと思います。普通は顔をそむけてしまいそうな映像を描いているのに、ついつい続きが気になってページをめくらせてしまいます。
 ただ、残念なのはこの短編集の中でいまいち平凡かなと思われる「C10H14N2(ニコチン)と少年」という作品が一番最初に載っていることです。買うかどうか本屋さんで立ち読みをして最初にこれがあるとやめちゃう人もいるのではないかと思ってしまいます。この短編集に入っている他の作品と比べて、ちょっとこの作品だけは平凡です。それ以外の作品は先に書いた様に普通でないすごみがある作品揃いです。 

 追記:オペラントの肖像という短篇は、逆にちょっとリリカルで個人的には星新一の長編版のような感じでこの作品集に入れるには綺麗すぎる気もしますが、でも細かくみていくと精神のおぞましさや風刺でいくとこの作品も「未来世紀ブラジル」的な歪みがあり、納得させてくれます。リリカルなところもあって個人的には好きです。

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)