小説・漫画好きの感想ブログ

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「ネクロポリス」 恩田陸著 

 数日前に、読み始めたときに大絶賛していた恩田陸さんの「ネクロポリス」、上下巻を最後まで読んだのでまとめて感想をアップしたいと思います。
 この小説、そもそもジャンルをわけるのが難しい小説なのですが、あえてわけるとしたら幻想小説でしょうか。というのも、この小説の中では常識や歴史や真実もその重みを失い、登場人物も読者もそのあり得ないシチュエーションをありのままに受け入れるしかないからです。
 物語が進めば進むほどに話は混乱と混沌の度合いを増し、途中途中のパートでふっておいたミステリ的な要素、ファンタジーな要素、ゴシックホラーな要素、語りの魔術の要素、そして神話解体の要素の全てが入り交じり謎が謎を呼び、ありうべからざる様相を呈してくるからです。そして、それがまた素晴らしいブレンド具合で、これが綺麗にはまるべきところにはまったら素晴らしい作品だっただろうなと思います。
 正直、でてくる要素が多過ぎて、風呂敷が閉じきれなかった感じを個人的にはどうしても感じてしまって、そこがもう残念で残念で仕方ありません。中盤までのぐいぐいと進んでいく物語の力と興味をそそられる謎の要素は素晴らしく、独自の文化と風俗をもったアナザー・ヒルというその場所の描写が魅力的だっただけに、小説全体の八割型までのところでいえば最近読んだ本の中でも間違いなくベスト5に入る出来だっただけに、そこが残念です。  
 ただ、繰り返しになりますが、最後の最後はもやもやっとしてしまいますが、そこまでは本当に素晴らしくてもう一行たりとも文句を言う所が見当たりません。どこをとっても魅力的で謎めいていて読む手が止まりませんでした。
 あらすじを最初のところだけ問題ないところまでだけネタバレしちゃいますと、舞台はV.ファーという島の、密林の奥にある聖地「アナザー・ヒル」。ここではヒガンという風習があり、その時にその「アナザー・ヒル」に赴くと、「お客さん」として死者が姿を見せるのだ。諸外国からは頑強な迷信であり、集団ヒステリーか何かだろうと思われているその行事だが、V.ファーの国民からすれば当たり前の事実に基づいた現実のこと。彼らが言うには、お客さんは死んではいるけれど血肉を備えた存在としてその時にはそこへと戻ってきて家族や親しい人と語るという。主人公のジュンは、それをフィールドワークとして経験しようとやってきた民族学者の卵である。彼は、現地人である教授やその家族達とともにアナザー・ヒルへと向かうが、そこで待ち受けていたものは現地の人々でさえ予測できない異常事態の数々。遂には甦る死者の謎の前に、現実の殺人事件までもがその聖地の中でも起こってしまう。果たして、、、。
 「ヒガン」という名前からも連想されるように、そこは日本人が大量に流れ込んだ土地でもあり、イギリス人が統治していた場所でもあるという設定なんですが、その場所の説明や風習も面白く、かえすがえすもラストが今ひとつスッキリしないことだけが残念です。もちろん、あの終り方が素晴らしいという人もいるとは思うのですが、個人的には「もやもや」になってしまいました。

ネクロポリス 上 (朝日文庫)

ネクロポリス 上 (朝日文庫)


ネクロポリス 下 (朝日文庫)

ネクロポリス 下 (朝日文庫)