小説・漫画好きの感想ブログ

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「戦争の法」 佐藤亜紀著

 今回の引っ越し整理で「発掘」されてきた本です。
 すでに新潮文庫で絶版となった、「ヴァルタザールの遍歴」の次の長編第二弾に当たる作品です。最近の佐藤亜紀の小説を読んでいればいるほど設定だけきくと違和感を覚えるかも知れない、日本の田舎を舞台にした作品です。
 1990年前後の日本を舞台に、ある日、新潟県がこの日本からの独立を宣言。ロシア軍が進駐し、共産党政権が長野を独立国化し、アメリカ軍がその周囲を包囲、日本政府はなす術もなく傍観し、かくて長野県内はロシア勢力、日本の傀儡政権、義勇軍、解放ゲリラがうろうろする不思議な場所となっていたというような設定の物語で、、、これがまた実に面白かったです。
 改めて読み返してみると、主人公の少年のビルディング小説としてもきっちりと定跡を守っている上で、日本的戦争の退廃や、ロシアの19世紀小説のようなこまごまとし不毛な描写もちゃんとパロディとして盛り込まれ、そこにアメリカの戦争小説のような適当さ加減も加えられていて、まさに混沌がちゃんと文学的にも再現されているという凄さまで隠されていて、いやはや佐藤亜紀はやっぱり凄いよと思った次第です。
 是非、図書館でいいから借りて読んで欲しい一冊です。
 映画化とかうまくしたら結構面白そうな題材だとも思います。とても映像的な作品でもあります。

戦争の法 (新潮文庫)

戦争の法 (新潮文庫)

 追記:アマゾン、いくら絶版作品だからといって、文庫なのに1590円というのは結構な値段がついていると思います。発売当時は520円だから、中古なのに、10年ほどで原価の3倍強の値段ではないですか!