小説・漫画好きの感想ブログ

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「キマイラ」2  夢枕獏著

「キマイラ」のノベルズ版です。
 そもそも今はなき「ソノラマ文庫」で出ていたものを2巻1セットでハードカバーになって(あとがきによるとかなり加筆修正が入っています)、それがさらにノベルズ版になったのがこの「キマイラ」ノベルズ版です。なので、本書は2巻となっていますが、そもそものソノラマ版でいくと「餓狼変」と「魔王変」の二冊が1冊になっています。田中芳樹の「アルスラーン戦記」と同じような合本とということです。
 さて。
 内容ですが、素晴らしいの一言に尽きます。
 キマイラというタイトルは、人間が不可思議な獣に変化する、もしくはその一部だけが様々な獣の複合体に変化してしまう、またそのものの事を指します。この物語の中では、久鬼麗一、大鵬吼、そして本作ではあらたに巫炎という人間がそのキマイラとなります。何故彼らがキマイラとなって変身するのか、どうしたらそれを抑えられるのか、そもそもそれは遺伝子的なものなのか何かの呪いなのか? それらが全て謎のままに進み、彼らが通っていた学校のクラスメートや、拳法の師匠なども出て来て、ものすごく面白い群像劇になっています。この二巻では、それらの中でも、キマイラとなった日本の二人がそれぞれの闇を抱えたままさまよい、ある意味で日常やこれまでの生活から離脱していく様が描かれています。また、それらの周囲の人物もそれぞれの思惑で動き出していますが、それが青春の悩みや、自分のブライドのための沸々とした黒いドロドロとしたものにもかき回されていて、夢枕獏の若さが前面に出ているのですが、それがもうものすごく心地よいのです。そして、恐るべきことに今もブレイク中の彼の作品の原型がすべてこの中にあるのです。
 いやぁ面白いです。二時間ほどかけて一気に読み切ってしまいました。
 初めて読んだのは二十年近く前で忘れているところも結構あったり、当時とはまた感じ方が違ったりとしましたが、とても面白かったということは一緒でした。実は、この「キマイラ」はまだ完結していない物語なんですが、是非とも完結させて欲しいと今回の再読でさらに思いました。
 (ちなみに「キマイラ」の最新刊では、先日北森鴻が「暁の密使」で描いていた、 河口慧海 や同時期にチベットを目指した仏僧の能海寛や寺本婉雅が動いていたあのあたりが舞台となっています)。

キマイラ 2 餓狼変・魔王変 (ソノラマノベルス)

キマイラ 2 餓狼変・魔王変 (ソノラマノベルス)