小説・漫画好きの感想ブログ

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「赤い竪琴」 津原泰水著

 今年335冊目の紹介本です。
 秋の夜長にぴったりのきわめつきの恋愛小説がこの「赤い竪琴」です。自分にとっては、津原泰水さんというと叙情的で耽美な文体のホラー作家というイメージだった(「蘆屋家の崩壊」や男爵との話など)んですけれど、雪芽さんのところでこの本のことが絶賛されておりまして、読んでみました。で、読んだ感想でいえば、冒頭で書いたように、素晴らしく密度の濃い恋愛小説できわめつきでお勧めの一冊となりました。
 甘い恋愛とは違って,どちらかというと押さえた感情表現の中で現されるプラトニックな恋愛小説で、音楽や言葉、雰囲気が圧倒的で、大人な恋愛です。食べ物でいえば、苦みの強いブラックスィートなショコラのような、強く濃い味わいです。でも、言葉の選択や語り口はあくまで繊細で味わい深いです。
 あらすじは、祖母の死後にその遺品の中にあったある詩人の日記を、その詩人の孫に届けにいったデザイナーの暁子がその孫に惚れてしまうことから始まる恋愛物語です。出だしからして、その詩人の孫の耿介(楽器製作者)が常連としているレストランのコンサートという音楽の味わいに満ちた空間ですが、その後の祖母・祖父のやりとりの裏にある言葉の考察や、タイトルの赤い竪琴のくだり、彼の音楽工房で短期間避難生活をする暁子が感じるあれこれなどすべてが濃密です。
 これは主人公の暁子が、過去の不幸な恋愛や仕事上での伸び悩みなどいろいろなことで悩んだり苦しんだりする結構難しい性格であることにも起因すると思うのですが(こうした女性の感情の機微をこまごまと繊細に救いあげていっており女性読者からも大変共感を受けているようです)、主人公の耿介のほうも抱えているものがあって悩んだりためらったりする為になかなか進展しないもどかしさがより深く影響しているかも知れません。アメリカのドラマとか最近のケータイ小説的なノリのように気分が向いたからといってそうそう簡単には全面的に相手に自分を委ねたり関係を結んだりということがないだけに、自分の中で想いを高めていく間にそれがどんどん煮詰まっていくわけで、そのぶん濃密な形に二人の関係はなっていきます。このあたり一歩書き方を間違えるとドロドロな感じになったり、偏執的な感じになったりしがちなんですが、津原さんのタッチがそれをうまく抑制しています。
 まぁあれこれ言葉を尽くすよりも、これは読んでもらうしかないです。秋の夜長にふさわしい恋愛物語です。

赤い竪琴

赤い竪琴