小説・漫画好きの感想ブログ

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「三国志」第一巻 宮城谷昌光著

 ちょっと前に七巻の感想を出した宮城谷三国志の読み返しです。
 今本屋さんでは映画「レッドクリフ」の公開を前にしたキャンペーンなのか吉川英治版の三国志が再版されていますよね(「レッドクリフ」は金城武トニー・レオンが出ていることで意外とヒットするのかな?)。そんな中での読み返しです。
 さて。第一巻を読み返してみましたが、とにかく出だしが重いです。普通の三国志の話と違って、後漢が崩壊していくのは、董卓の横暴や何進や十常持ら宦官の無茶があって突然に起こったたというのではなく、そこに至るまでに既に事実上は崩壊していたのだということをこれでもかこれでもかと描写します。曹操の祖父で宦官だった曹謄が曹操に繋がるものとして出て来ますが、それ以外は普通の日本人には殆ど縁遠い人物ばかりで、今までに日本ででてきた三国志では殆ど省みられなかった人物の「プレ三国志時代」のエピソードが結構遅く、本当に立ち上がりが遅いです。このあたりが、この宮城谷三国志にみんなが喰いつきが悪かった原因かなぁと思います。 
 なんせ、この一巻、一冊まるまるかけてやっていることと言えば、本当にマイナーな登場人物達の栄枯盛衰と王朝の腐敗と陰謀の様子がこれでもかこれでもかと繰り返し描かれているだけなので、感情移入できる登場人物は一人として出て来ませ。ですから、本当の話、喰い付きようというのがないんですね、改めて読み返してみてもそうなんです。
 物語をそのように始めた作者の狙いや意味はよくわかります。今までの三国志のようなものとは一線を画して、歴史それ自体の要求としてああいう歴史があったのだという風にするには、その時代をしっかりと認識してもらう為にも、今までの三国志のイメージを払拭するにはそうするのが必要だというのはわかります。確かにこれを読めば、漢王朝の滅亡が必至であったことはよくわかります。当時の漢王朝の権力構造からすると、宦官が権力を握っても、その逆に外戚が権力を握っても、どちらに転んでも政治は庶民とほど遠い権力者たちの強欲とエゴのみが支配する弱肉強食の世界でしかなかったし、いずれは破綻するものであったということがよくわかります。董卓のせいでも、何進のせいでもなく漢は滅びます。その前振りがこの一巻をかけて描かれています(ちなみに董卓が出てくるのは二巻の終わりでようやくやっと、というペースです)。
 けれど、やっぱりそう思わざるを得ないんですけれど、これは立ち上がりが悪いというかスローペースすぎます。ファンじゃないとたぶん投げてしまいます。文学としてはやはり良く出来ているし、史実に即した三国志という新機軸もわかるし、丁寧さもわかるんだけれど、ペースが遅すぎるし、掴みが悪いです。くどいようですがとにかくスローです。なんせ二巻の終わりでもまだようやく董卓が出て来たくらいですから、、。普通に考えたら二十巻コースです。それくらいのスロースタートです。これが二十巻コースで完結したならそれはそれで良かったのかも知れませんが、今の七巻を見る限りではかなりのハイペースで物語が加速しているだけに、この遅さはやっぱりちょっと失敗だったんじゃないかなぁと思います。宮城谷さんのファンだけに、これは勿体ない出だしだったなぁと思わざるを得ません。
 こんなレビューを書くと、熱狂的なファンには怒られそうですが、正直に書くと上のような感じです。

三国志〈第1巻〉 (文春文庫)

三国志〈第1巻〉 (文春文庫)