小説・漫画好きの感想ブログ

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「影と陰」 イアン・ランキン著

 イアン・ランキンシリーズの第二弾。
 「青と黒」の下巻がなかかな手に入らなかったので、そちらをフリーズさせてこちらに流れました。本来はこちらのほうが前に紹介した「紐と十字架」の次の話になるので、ままよいかと。
 あらすじは、こんな感じ。荒廃したスラム街で発見されたヘロイン中毒の青年の死体を巡って、事故ではなく事件なのではないかと考えるリーバス。彼のもとに、被害者の彼女と思われるトレイシーという女性からの接触があったが、捜査すればするほど錯綜してくる事件にはリーバスも頭を抱え込む。黒魔術の儀式がかかわっているのか、それとも麻薬絡みなのか、あるいはホモ売春の線なのか、情報はたくさん出てくるがその中で一つの線が見えてこない。そんな折に、リーバスは上役から麻薬撲滅キャンペーンの責任者をやるようにとの指示が出て、スポンサーである経済界や政界のお歴々との関係をもたざるを得なくなる。錯綜する捜査の中に彼らの影も出て来て。。。。
 「血の流れるままに」もそうでしたが、このシリーズ、事件の解決はするものの巨悪の全てにはメスが入らず、かなり苦い結末になることが多いです。リアルといえばリアルなわけですが、こんなことを繰り返していると、そのうちリーバスは誰かに消されるんじゃないかという心配があります。リーバスは、けっこうアル中だし、女癖も悪いし、別れた妻子という弱点もあるし、わりと隙が多いので本当に心配な主人公です。
 さて、本作ではそのリーバスが、あとあとまでの部下となるホームズと初めて出会った事件でもあるのですが、捜査に関しての粘りと徹底したプロ意識(というよりはしつこさ)が光る事件でした。誰も気にとめないような薬中毒の青年の死体を事故と処理せず、ありとあらゆる方面から捜査して、ついにはとある証拠を発見するためには人糞の山の中にまで手を突っ込んでいくという姿勢にははなはだ泣けてきます。それでいて、ちっともそれを苦とも嫌だとも思わず、もはやその意識はここに証拠があるはずというとこしか見えず高笑いまでしているのですから、とんでもないお方です。どうしてここまでの意識があって、あれほど回りの女性には不器用なのかがわからないくらいです。
 まま、それはさておき、この話、最後のほうでは思いがけないところにまで話は進んでいくのですが、本当にまぁエジンバラというところはこの作品世界では悪徳の街です。どこの階層にも悪党が大量に潜んでいて、どこにもかしこにも犯罪がある。ブルーカラーとホワイトカラーがハッキリしているイギリス独特の世界ですが、そのどちらにもその階級にふさわしい悪党がいる。それに対して、リーバスはひたすら戦いを挑む。
 現代のハードボイルド系のミステリの中でも、陰鬱さと男っぽいという点ではトップクラスのミステリシリーズです。

影と陰 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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 追記:ファンにしかわからない話かも知れませんが、ジル・テンプラーとのその後。前作であんなに深く結びついたと思いきや、冒頭でいきなり切れているのに驚きました。ランキンは、どうにもリーバスを幸せな状態には置いておきたくないのでしょうか^^