小説・漫画好きの感想ブログ

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「陰陽師 瀧夜叉姫」(上)  夢枕獏著

 陰陽師の文庫版の最新刊。
 今までの中で一番長編の陰陽師です。この話もかれこれもう二十年選手です。 
 さて。今回は前後編の大長編ということで、登場人物も、安倍晴明源博雅の名コンビに、芦屋道満安倍晴明の兄弟子の賀茂保憲、浄蔵といった定番メンバー、そしてなんと平将門が登場。平将門といえば、この時代でいえば、菅原道真公とならぶ怨霊中の怨霊ですが、彼が登場。他にも藤原秀郷(俵藤太)が出てくるなど、平安時代の軍記好きやオカルト好きにはたまらない豪華な舞台と登場人物が揃っています。
 今までの陰陽師は、どちらかといえば説話集の語り直し的なものや、人の世のはかなさやあでやかさ、人の情などを短くまとめた短篇的な感じのものが多かったですが、この「滝夜叉姫」はさらにスケールの大きな話で呪術合戦などの伝奇的な楽しみと同時に、大掛かりな歴史ロマンを感じさせる作品になっています(ま、上巻までしか読んでいないので後半ぐだくだだったらごめんなさい。でも夢枕獏作品だけにそれはないと思います)。
 平将門が京の都で首だけになりながらも呪詛の言葉を吐いた後に東へと飛んだといわれる年から数えて二十年、往事の平将門討伐にゆかりのあった人々の身に怪異が降り掛かっていた。頭痛に悩まされるもの、奇怪な疱瘡に顔を冒されるもの、毎夜悪夢を見るもの、深夜に賊に忍び込まれるもの、巨大な蛇に教われるもの、それらの事件への取り組みを兄弟子の保憲に頼まれる安倍晴明。いつにも増してかっこよいです。
 が、欲をいえば、今作では前半戦を読む限り、博雅の影が薄いです。けっこう出ずっぱりなんですが、見せ場が薄く、呪の問答も前半ではまだあまりなく、神秘的な力を使う晴明に対して、物理的な力を発揮する部分を受け持つのがいつものパターンなんですが、今回は、もう一人の武将に美味しいとこをもっていかれています。俵藤太と、彼がもっている愛刀の「黄金丸」。このコンビに美味しいところをもっていかけています。妖かしをも両断し、傷口が治ることすら拒む妖刀「黄金丸」を携えた彼のほうが妖物退治には向いていますし、なによりかつて将門を倒したのはこの藤太その人でもありますし、今回は博雅の出番が少ないです。
 博雅、後半で巻き返しなるか?  の上巻です。  

陰陽師―瀧夜叉姫〈上〉 (文春文庫)

陰陽師―瀧夜叉姫〈上〉 (文春文庫)