小説・漫画好きの感想ブログ

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「センセイの鞄」 川上弘美さん

 いつもお世話になっている四季さん(いや、下の森博嗣シリーズの四季さんとは関係ないですよ)のブログサイトCiel Blueで紹介されていた「たらいまわし本」という企画に参加するべく読み返した一冊です。この「たらいまわし本」という企画は、テーマを決めて、それに沿った本を紹介するというもので、今回のテーマが「ご老体本。」要はおじいちゃんやおばあちゃんが主人公的だったり、おじいちゃんおばあちゃんが書いた本(そういう意味では瀬戸内寂聴さんが匿名で書いていたというケータイ小説もこの範疇か)、ご老人向けの本などで紹介しあいましょうというものでした。自分もこれに参加しようと一週間くらい前からそれにふさわしい本をいくつか考えていたんですけれど、途中で体調不良になってしまったので実際に読み返してみたこの本だけをアップします。
 
 センセイの鞄
 川上弘美の名前を一躍一線級に引き上げた本だし、小泉今日子さんや榎本明さんで映画化したのでそちらもそこそこあたっていたので、名前を聞いたことある人は多いと思います。ただ逆にメジャーになりすぎて読まなかった人も多いと思いますが、だとしたら勿体ないので是非読んで下さい。
 「センセイの鞄」は本当に素晴らしくいい本なのです。
 あらすじだけを語ると、40歳手前のツキコさんと、そのツキコさんの高校時代の国語の先生で70歳のセンセイのラブストーリーということで完結してしまうお話ですが、でも、これが実によいんですよ。ほろほろとゆったりとお酒を飲んでいるような、しかし切なさがずっと身体にしみ込んでいくような、でもぽっと心の芯が暖かくなるような、本当の意味での大人の恋という感じで気持ちよく読ませてくれるし心の襞が震える本なんです。
 ちょっとぽっちゃりしているけれど、不美人なわけでもなくそこそこモテるのにどこか恋愛に冷めているツキコさんが、徐々にセンセイにひかれていって暖かい気持ちになっていく描写。年がいって枯れていたはずなのに、少しずつ少しずつツキコさんに男として惹かれていくセンセイ、デートだといって子供みたいに無邪気で喜ぶセンセイ。もちろん、年の差があるから完全に幸福なハッピーエンドということにはならないのだけれど、でも、幸せで暖かくて心にしみる恋愛小説で、日本の小説家が書いた、大人を描いた恋愛小説の中では指折りの作品なんじゃないかなぁと個人的には思います。
 川上弘美ときいて、「蛇を踏む」とか「神様」とか「龍宮」とかの不条理シュール世界がまっさきに浮かんじゃう人も多いと思いますが、これは全くそういうのではありません。また同じ恋愛ものでも「ニシノユキヒコの恋と冒険」などとはまた違って、真摯に年に似合わぬ純情さで恋に向き合う二人が描かれているこの作品はへんに構えずに先入観を持たずに読んでみて欲しいです。

センセイの鞄 (文春文庫)

センセイの鞄 (文春文庫)


  

候補として考えていた別作品の一部
博士の愛した数式小川洋子著  こちらは記憶障害をもつ数学教授と家政婦さんの感動もの
剣客商売池波正太郎著 親子二代にわたる剣客歴史時代劇
「隅の老人」 バルロス・オルツイ著 安楽椅子探偵もの
「イシャーの武器店」 A・ヴォークト著 SFで不老の地球人が人類を影ながら導く話
修道士カドフェルシリーズ」 エリス・ピーターズ著 ご存知カドフェルのシリーズ。
ポワロは老人といわれると怒られそうなので。。。

 追記:ご老人本のとこで思い出すのも失礼な話ですが、ソフトバンクホークス王監督が今季限りの引退あいさつを福岡でされていましたが、どうせなるならあれくらい尊敬を集めるおじいちゃんになりたいなぁとしみじみ思います。ああいう責任感と強い意志と克己心に溢れるご老人になりたいです。