小説・漫画好きの感想ブログ

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「連鎖」 真保裕一著

 食品Gメンのハードボイルドミステリーです。
 下で三笠フーズの話題を出したときにjettさんに紹介してもらって読みました。時代はチェルノブイリ原発事故のそのあとの食品汚染が背景にあったり、登場人物が携帯電話をもっていなかったりと変に時代を感じてしまいましたが、最近の食品偽装を見ていると今もその体質は全然変わっていないです。
 内容のほうは、輸入食物の検疫所に勤める食品Gメンが主人公のハードボイルド(というほどハードではないけれど)ミステリーです。元恋人ながら、今では友達の奥さんである女性と不倫していた主人公は、その相手から主人が自殺未遂を図ったと連絡を受けて病院へと向かいます。そこで聞かされたのは友人が車で海につっこんだという話です。暗に自分たちの浮気が彼を自殺へ向かわしたのだと宣言された彼を待ち受けるのは、その翌日の朝早くに検疫所に届けられた、ファミリーレストランへ毒薬をばらまいたという警告文。刑事と連絡を取り、現場のファミリーレストランの倉庫へと向かうとそこには全面にぶちまけられた農薬が待っていました。このファミレスにはかつても系列店舗のキッチンに農薬を巻かれたこともあり、怨恨なのか何なのか、状況がわからないままその肉を検査しようとすると店は完全に処分すると強硬に検査を拒否します。釈然としないまま事務所に戻った彼でしたが、どうやらこの事件には裏があると捜査を支持されます。そしてその捜査を勧めるにつれ、自殺未遂を図った友人のジャーナリストが同じネタを追っていて、事件に巻き込まれた気配が濃厚に漂っていることに気がつきます。
 友人の事件の真相、食品の偽装問題の真相、そして関係者の身のに次々と起こっていることを調べていく彼の目の前には次々に新事実が示されます。果たして事件の本当の姿は何なのか? 本当の黒幕は誰なのか?
  
 というような話なんですが、読者はこれを読んでいく中で、日本の食物汚染の実態やら、国内に流通している食べ物の安全性のあまりの低さ(システム的なことや構造上の問題も含めて)を知ることになります。真保さんにとっては、そういう読み方ばかりがクローズアップされるのは不本意でしょうが、発表されてから時間を経てもこの問題の変わらなさを見ているとそういう意味での価値がある本といわれるのも仕方ないかなと思います。多少辛口になっちゃいますが、そういわれるようなバランスになっています。個人的な好みでいくと、ストーリーの面白さや満足感が高いほうが個人的には好みです。
 自分にとってのベスト配合というのを考えると、むかし、アーロン・エルキンズが「自分が理想とするミステリは、ミステリとしてあるだけでなく、一冊読むと何かしらの知識が知らず知らずのうちに身につくものです」と言っていたそういうのが好みなのでちょっとミステリとしての評価は低めでしょうか。村上龍ほどそういう勉強の成果が前面に出ている作りがあるわけではないですが、割合と事件やミステリの内容そのものと五分五分以上に出ているのも含めて、そういう評価です。
 あ、あと最後の最後のほうでいきなり違うテーマといっていい「復讐」についての話が出てくるのがちょっと違和感がありました。タイトルとか考えるとそれが本当の書きたいテーマだったのかも知れませんが、なんか取って付けたような感じがどうしてもしてしまいました。

連鎖 (講談社文庫)

連鎖 (講談社文庫)