小説・漫画好きの感想ブログ

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「スミソン氏の遺骨」 リチャード・T・コンロイ著

 アメリカのスミソニアン博物館を舞台にしたミステリーシリーズの第一弾です。全部で三作品ありますが、どれも独立して楽しむ事ができます。ただ、スミソニアン博物館という世界最大級の博物館であり研究機関である施設の内情や特殊性がきっちりと描かれているこの巻が、最初に読むにはちょうどいいと思います。
 自分は、この本、15年くらい前に一度読んだことがあったんですが、ひさかたぶりに手にとって再読してみて、そのスミソニアン博物館という舞台を最大限にいかした構成と設定がすごくよくできていたことを改めて感じたのでここで再度紹介します。
 主人公のヘンリー・スクラッグズは、アメリカ国務省からスミソニアン博物館へ出向宇で派遣されている渉外業務職員。早い話が外国とさまざまな連絡を取ったり、海外からのお客さんにスミソニアンのしかるべき筋へ紹介をしたり案内をしたり職員のために外国への便宜を図る職業。閑職ともいえるし、キャリアにはあんまり役に立たないけれど、のんびりと紅茶を飲んでだらだらしてピアノやチェンバロを弾くのが趣味な主人公にはちょうどいい仕事。
 ある日、そのスクラッグズに上役からIPESという海外とスミソニアンを結ぶ巨大郵便網についての調査の依頼が下る。経費削減のための見直し政策の一つで、過去にも一度そのための委員会が設置されたが官僚的な機構の前にほったかしにされていたのを再度調査することになったのだ。スクラッグズは面倒くさいなと思いつつ、その調査に乗り出すが、乗り出すのとほぼ同時期に偶然にも、このスミソニアン博物館の創始者のスミソン氏の頭蓋骨を発見してしまい、その頭蓋骨があったはずのところで一つの死体を発見してしまう。
 フリーズドライされてバラバラに切り刻まれた、法務部の職員の死体だった。その興奮もさめやらぬままに、博物館の中で一体、また一体と彼は死体を見つけ出すことになる。周囲からは犯人だと疑われたり、鬱陶しがられるが見つけてしまうもの、ここで死んでいるのではとわかってしまうのは仕方がない。かくして、行きがかり上の流れで、フィービというスミソニアンの嘱託弁護士と、テイラーやハミルトンというスタッフと一緒に事件の解決に深く関わっていく。。
 ちょっと禿げかけた頭とケーキとお酒が好きな中年太りしたヘンリーは、頭脳明晰、切れ者、という感じではないので、ゆったりリラックスしたり笑ったりしながら読めます。そして、文体そのものがけっこうユーモアのある感じなので、そのあたりもいい感じです。全体の雰囲気としては、ちょっと前のまだ殺伐としていない頃のアメリカのミステリという感じで時間がとてもゆっくりと流れていきます。
 なので、こういう秋の夜長にのんびりと読むのにちょうどいい本かなと思います。

スミソン氏の遺骨 (創元推理文庫)

スミソン氏の遺骨 (創元推理文庫)