小説・漫画好きの感想ブログ

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スペンサー「背信」 ロバート・B・パーカー著

 あらすじは、主人の浮気調査を依頼されたスペンサーが、自分の調査中に、その問題の主人が殺されてしまうという不思議な幕開けで始まります。しかも不可思議なことには、その調査相手の主人にも、彼と密会していた愛人にも浮気調査員がはりついており、そしてまた、その浮気相手の女性の旦那にも浮気調査がかけられているという多重浮気調査がなされていました。こういう不思議な事件を発端にスペンサーのいくところ、企業内での殺人事件が次々と起こっていきます。なにがどうなっているかがさっぱりわからないスペンサーは手がかりを掴むためにひたすら事件関係者に揺さぶりをかけ続けていき、ついには全貌を掴みます。。。
 てなことで、あらすじがそのまま事件展開になっているようでプロットのひねりはなしです。
 スペンサーシリーズ、冷静に振り返ると最初と違ってスペンサーは本当に頭を使わなくなっちゃいました。とにかく関係者につきまとって、誰かがいらだって何かことを起こすのを待つという戦法だけでここ最近は事件を解決しています。殺されなかったのは運がいいのと、仲間たちを駆り出してチームでやっているからというハードボイルドの主人公にはあるまじき状態に陥っています。
 最初の頃は他の探偵たちと同様に食べるために仕事している部分もあったんですが、どこかでリッチになってしまったのか金のために働くというよりは趣味のために働いているという状況になり、必然として事件の解決もひりつくような正義感や依頼者のためというよりは、自分の興味を解決するためという感じになっています。そして、常にチームを組んで動くようになってしまっています。あらためて考えると、ギャラを大量に支払っている様子もなく、なんだか不思議なことになっています。
 いや、本当の話、スペンサーシリーズ、冷静に落ち着いて振り返ってみると、主人公はそうとうにわけがわからない状態になっているし、探偵としてのアイデンティティーもタフガイのヒーローというところから大きく崩れてしまっています。このあたりがスペンサーシリーズ、切り時かなぁ。。
 個人的にはどんなタイプの探偵がいてもいいと思います。
 レックス・スタウトのネロ・ウルフのような安楽椅子・美食家探偵がいてもいいし、フィリップ・マーロウや原寮の小説のような正当派ハードボイルドもありでしょう。島田荘司御手洗潔みたいな天才系もいいし、京極夏彦の榎木津探偵のような探偵の概念を覆す特殊探偵もいいでしょう。ローレンス・プロックの元アル中のマット・スカダータイプもいいし、泥棒探偵のウィットにとんだバーニー・ローデンバーもありです。あと超正当派、もはや古典といった方がいい、シャーロック・ホームズもアルキュール・ポアロもいいでしょう。探偵という枠をとっぱらって推理者として考えれば、北森鴻の工藤や、北村薫の<私>などもいいと思います。どんなタイプでもともあれスタイルがあり、良心があって事件を解決するタイプがあって、そして、推理プロットがある探偵であれば(そう考えると榎木津はダメなはずだけれど、あれは例外)いいんです。でも、だんだんとスペンサーはそういうカテゴリーに入れるのもはばかられるほどに筋肉バカで、それでいて感情の発露が自分とスーザン、そして仲間にしかいかない変な人物になっていて、魅力がなくなってきました。
 勝手な連想ですけれど、理想に燃えて自分の正義の為に熱く戦ったり何かに餓えてかくあるべきの幸せのために頑張っていたのが、だんだんと自分の満足と興味のために圧倒的な力と腕力で強引に事件を解決するスタイルは、まるでアメリカの写し絵のようにも思えます。
 なので、ひょっとすると、この「背信」でロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズはレビュー終了するかも知れません。

背信 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 1-47 スペンサー・シリーズ)

背信 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 1-47 スペンサー・シリーズ)