小説・漫画好きの感想ブログ

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『早春の少年 伊集院大介の誕生』 栗本薫著  

 この本は、栗本薫の人気シリーズ、伊集院大介探偵シリーズの一冊で伊集院大介の少年時代が描かれています。
 彼が中学3年生の頃の話で、彼が平野という地方の一都市に引っ越してきたところから始まります。かなり田舎のその町は盆地という地理的な特性からか周囲ともあまり接触がない隔絶した都市で、住人のたいていはお互いに顔見知りだというような所です。そんな町ですから、大介みたいに綺麗な標準語をしゃべる人間はあまりいず、大介は最初不思議な目で見られますが、そのうち、地元の「とっぺ」という名の少年と仲良くなっていきます。
 そんなある日、彼等は川べりの木に、猫が釘で打ち付けられているのを発見します。どうやら、その猫は殺された上で、皮を剥がれて打ち付けられたようでした。なんとも奇妙で残酷で、嫌悪感のある行為です。
 それから数日、同じ川でに人間の手と足が流れ着いてきました。
 明らかに、その川の上流で誰かが殺されたのです。
 早速刑事たちが町に現れ、捜査が開始されます。それを見ていた伊集院大介は自分なりに調査を開始し始めます。「早く大人になりたい」「僕は、僕でしかなれない何かに、世界が僕のいうことに耳を傾けるようななにものかになりたいんだ」「その為には完璧でなきゃ駄目なんだ」彼は14才という若さを恨み、しかしその若さでしか持てない強い情熱で探偵になることを決意します。
 名探偵、伊集院大介最初の事件です。
 もちろん、彼はそれでもまだ14才ですから、「コナン」や「金田一くんの事件簿」のように警察に一目置かれたりはされません。彼はあくまで捜査陣にとっては邪魔者にしかなりません。逮捕までの道のりにしても警察としては彼の存在はいてもいなくても結果的にはどちらでも
よいものでした。
 しかし、彼にとっては、これはその後の未来を決定づける一件なのでした。
 読後感は上々。ミステリというよりも、一人の少年のビルディング小説として読んだような一冊です。読んだ人はきっと自分の中学時代の熱さを思い出すでしょう。そういう意味で、お勧めします。ただ、本格ミステリを期待すると肩透かしかも知れません。
 ということで、これは5の3でお薦めします。

早春の少年―伊集院大介の誕生 (講談社文庫)

早春の少年―伊集院大介の誕生 (講談社文庫)