小説・漫画好きの感想ブログ

小説・漫画好きの感想ブログ

「忌館 ホラー作家の棲む家」 三津田信三著

 巷でじわじわと噂の三津田信三初読みです。
 きちんとした形ではたぶんデビュー作らしい本書は、家・館シリーズ三部作の第一部らしいですが、独立したホラー作品として読めるということで手を出してみました。夏ですし、納涼に良いかと。
 ストーリーは、三津田信三本人が武蔵小金井という小さな町で偶然見つけた洋館(イギリスのティンバーハウス方式というそうで、後に実際にこれはイギリスから移築された本物のイギリス洋館であることがわかる)に一目ぼれ、魅入られたようにそこに住むようになってから起こる怪奇と、物語中でも作家兼編集者である三津田氏が書く作中作品「忌む家」がシンクロしたりねじれながら繋がってつむいでゆく濃厚なホラーものです。作品中の作品が本体にも影響を与えるというお話上の入れ子構造だけでなく、話のキモとして、どちらにもその館そっくりにできたドールハウスが出てきたりと、読んでいるこちらの認識も奇妙にねじれさせてくれてなかなか不気味でした。
 そこに住んだ四人家族がことごとく父・母・姉・弟という構成でいつも弟以外の三人が異常かつ執拗な殺され方で死ぬという符号や、そこにではいるする謎の人物など、ホラーとしてのお約束もきっちり守りつつ、クトゥルー神話体系のネタも少し入れながら(逆にそれがあまりにストレートに呪文に出てくるからちょっとだけ恐怖から笑いにその部分だけシフトしたけれど)、じわじわと、そしてねちっこく描写していく書きっぷりはまさにひさびさに正統派というか王道のホラーでした。
 さらに、ホラーであるにも関わらずかつかつ合理的な解決がつくようなミステリー色(あくまでかつかつスパイス程度に見たほうがいいのかな程度)も加わっていて、その意味ではちょっと贅沢な仕上がりになっていました。ただ、そのミステリー色がこの後も続くのか、あるいはもっとバランスの取れたとこに行くのか、そのあたりはほかの作品を読まないとわからないし、とことんホラー色に浸ったものも読んでみたいなと思います。クライブ・ヴァーガーとか、キングとかとはまったく毛色が違うんだけれど、そっちにとことん寄ってみてもらっても面白いかなぁと。日本だと朝松健とかがこういうテイストのを書くけれど、朝松さんはどちらかというとジュヴィナル(いまだとラノベに分類されるかな)にいってしまったし、荒俣宏さんなんかも最近は薀蓄重視にいきすぎているので、他にはいないタイプのホラー作家としてちょっと追っかけてみたいホラー作家さんです。

忌館 ホラー作家の棲む家 (講談社文庫)

忌館 ホラー作家の棲む家 (講談社文庫)