小説・漫画好きの感想ブログ

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「イノセンス」 山田正紀著

 押井守監督の映画「イノセンス」のノベライズ版という位置づけにあたるわけだが、山田正紀著ということであれば、また違った趣きや愉しみが得られるのではないかという事で購入してみたら、偶然にも映画版のテレビ放送が翌日深夜帯であるということで読み比べ的に読んでみました。なので、若干映画版が感想に影響を受けている可能性があることを最初に断らせていただきます。
 断らせついでに言わせていただくと、映画版も小説版もそもそもは、士郎正宗の「甲殻機動隊」のシリーズ作品の一つ、後日譚であるということを理解していない/自分のようにそちらをそもそも見ていない人にはちょっと分かりづらい事があったこともあわせて先に書かせておいていただきます。
 さて。
 そんなわけでかなり情報量が足りてない状況下で読んだ「イノセンス」です。
 時代は未来都市の日本らしきところ。コンピュータ技術は格段に進歩しており、生身の脳に機械仕掛けの脳を組み込んだ者、全身のほとんどを機械に置き換えてサイボーグ化した者、すべてが機械のアンドロイドやガイノイドと呼ばれる者、それらが混沌とした今よりは科学技術が進んではいるものの戦争が蔓延し治安が悪化した世界に彼らは暮らしています。本作の主人公のバトーは、その未来都市日本の中の公安9課と呼ばれる、電脳対策に特化したチームに所属しているサイボーグで全身のほとんどが機械の身体となっています。彼は、バセットハウンドでガブリエル(通称ガブ)という名前の犬と暮らしています。
 彼はある日、そのガブのために餌を買いに街へ出たところ、車をハッキングされひどい事故で命を落としそうになります。行き道でたまたま知り合ったアンドウという男に助けてもらい、死ぬまでにはいかなかったものの、脳を初期化した事で違和感があったのか、ガブは家をでて行方不明になってしまいます。ただ一人の家族ともいえるガブに出てていかれたことで、自分に果たして魂があるのかと悩むバトー。ガブの足取りと、目下に抱える事件の行方が徐々にからみあっていき、、、。 
 全体の雰囲気でいえば、ハードボイルド的な手法で描かれたそのまま未来都市でのハードボイルドです。追憶の中にだけある女性への思い。ふと出会う事になった友人の為に戦う姿。夢の中で繰り返し現れる何かの暗喩ともいえるメッセージ。複雑に絡んだプロットで、結局は自分は誰かに操られていたのが発覚する展開。また自分が普通ではないと突き放して冷めた感覚。どれもハードボイルドのコードにのっかって展開されます。
 それがスピード感溢れる電脳世界(イメージでいえば「ブレードランナー」の世界を更に、人間と機械の融合が進んでいる)とちょっとしっくり来ていない部分があって、ここの融合には人間の思考がもっとスピードアップするか、或いは機械を使う事にもっと当たり前の状態にならないと難しいのかもと感じました。例えば、文中では、そうした人間と機械のブレンドされた状態の人間は、感情をお金を出して脳内物質をブレンドされた薬で補うシーンが出て来たり、或いはまた異常を治すために電脳を初期化したりするシーンが出て来たりとあきらかにそのことによって人類が滅びへと向かっているような感覚が出て来て、肯定的に捉えづらかった事があり、それがマッチングとして少しマイナスになっていたかと思います。いっそ、ナチュラル(この物語の中ではフレッシュと呼ばれています)な生のままの人類がもっと特権的だったり、或いは敗北者であれば物語背景的にはいいのかな等と本筋とは違うところでひっかかりました。
 なので全体評価としては、ごく普通,可もなくなく不可もなくという感じに留まります。
 ただ構造的なところに話戻すと、ハードボイルドとしての完成度で言えば、セオリー通りの中できちんと綺麗に話は収束しておりよく出来ていました。なので、深みというものがちょっと足りないかなという感じがマイナスとすれば、背景や原作つきのノベライズだったの事が逆に山田正紀氏としては想像力を駆使することができず、某かの制約になってしまっていたかも知れませんね。
 

イノセンス After The Long Goodbye (デュアル文庫)

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