「精霊の守り人」 上橋菜穂子著
説明の必要もないくらいメジャーになってる日本製のファンタジーものの白眉作品。
アニメ化されている方も全く未見で、あらすじも知らず、先入観なしで読みました。なるほど、世間の評価が高いのも納得のすごくいい作品でした(おかげで「ハリー・ポッター」も読まなきゃならんかなとちょっと思ったりもした)。
ストーリーは、ヨゴ皇国という半島にある国の第二皇子であるチャグムが川に溺れているところを、たまたま現場に居合わせた女用心棒のバルサが助けるところから幕をあけます。皇族のものと目をあわせると平民は目が潰れると言われるほど身分格差がはっきりとある国だけに、助けたといっても普通は謝礼を渡されてそこで話は終わるはず。なのに、その夜に助けたお礼にとチャグム母子が住む二の宮まで呼ばれて歓待を受けたバルサは、チャグムの母親から彼を連れて逃げて欲しいと依頼されます。彼女の言によれば、チャグムには何かが宿っており、それを恐れた星読みの博士や帝にチャグムは命を狙われているというのです。バルサは、やむを得ず、偽装工作のうえでチャグムを連れて宮を脱出するものの、帝からの追っ手を交わしつつ、チャグムに宿ったのが何なのか、その意味するものは? と謎を解き明かしながら旅をしていきます。。
このあと、物語はタンダや、トロガイ老師といった魅力的なキャラクターを加えつつ進んでいきますが、これが実に心地よかったです。児童文学ということで難しい言葉や想像力を限定してしまうような描写を押さえていますが、それでも面白さはいささかも衰えることなくむしろ映像がどんどんどんどん湧いてくるような感じで話は進んでいきます。
何も知らず弱かった少年が徐々に成長していく過程にも素直に心動かされるし、この世の中とつながるもう一つの世界の不思議な景色にも心奪われますし、モンスターや不思議な人界以外の生き物の営みもあくまで、生物としての自然な営みとして描かれている姿にも安心してはいっていけます。文句なしです。特に、この世界からすると恐るべき人外の生き物も、あくまでそれらにとっては当たり前の生活を送っているに過ぎないというのも良かったです。魔王や神が出てくる話も面白いですが、少年の成長物語やファンタジーの魅力をそこに頼るものよりも、この物語はもっと上質に感じました。
ということで、手放しでほめてしまうこの作品ですが、いいなと思っただけにこの第一巻以外が全部まだハードカバーだというのが逆に恨めしいです。待つのが辛いです^^
- 作者: 上橋菜穂子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/03/28
- メディア: 文庫
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追記:著者の上橋さんが文化人類学者であると解説で読んでなるほどと納得でした。「指輪物語」のトールキンさんもそうですが、言語学や民俗学の学者さんたちの頭の中はどんな魅力的な世界に満ちているのでしょうね。