小説・漫画好きの感想ブログ

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「シャーロック・ホームズ対御手洗潔」 柄刀 一著

 御手洗潔といえば、日本の名探偵を挙げよといわれれば新本格ミステリの世界では絶対に五本の指に入る探偵です。島田荘司さんが彼を主人公にして書いた諸作品(個人的には「異邦の騎士」や「クリスマスのディナー」などが名作だと思います)は、読まれた方も多いと思います。その御手洗潔とワトスン的役割の石岡和己を主人公にした話を、著者の島田荘司以外の人物が書いているということに興味を覚え入手してみました。
 あとがきによれば、島田荘司さんからの提案でもあったようで納得いたしましたし、そのパスティーシュのレベルはかなり高く、御手洗潔ものとして著者名を伏せて出されれば、たぶん島田荘司作品だと思って読んでしまうと思います。それくらいパスティーシュとしてよく出来ています。そして、ただそれだけであればあくまでパスティーシュというだけであまり面白みがないのですが、本書にはそのパスティーシュ以外にも、シャーロック・ホームズのパロディ、ならびにシャーロック・ホームズ御手洗潔がイギリスの片田舎で巨人伝説にまつわる謎と誘拐事件の解決に協力するというなかなか楽しい趣向があって、一冊として楽しめる内容になっていました。特に、真面目なパスティーシュからは想像もつかないくらいの、ホームズパロディでは文体を崩しまくっており内容もシャレでつっぱしっていて(愛鈴・アドラーだとか、鳩村夫人とかいう適当な日本名化なども含めて)その落差も笑わせていただきました。
 シャーロック・ホームズの笑わせてくれるパロディといえば黒崎緑が有名ですので、さすがにあのレベルを期待されると困りますが、真面目なパスティーシュとかけあわせる素材としては十分なレベルかと思われます。まぁ、単体で出されたら、と考えれば本編よりも、巻末付録のワトスン対石岡の文通での戦いが一番面白いのが困りものではあるんですけれどね。

御手洗潔対シャーロック・ホームズ (創元推理文庫)

御手洗潔対シャーロック・ホームズ (創元推理文庫)