小説・漫画好きの感想ブログ

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「山茶花は見た」 平岩弓枝著

 「御宿かわせみ」シリーズの第四巻です。
 ちょっと前に読んでいたんですが、紹介が遅れていた一冊です。
 今回も短篇が八つ。元同心の娘るいが営む旅籠の「かわせみ」を舞台に、彼女とその愛人の神林東吾がおりなす人情物よりの連作推理時代劇です。
 ゆるゆると時の流れて行く中で、二人が巻き込まれたり、東吾を頼る同心で友人の源三郎のために事件解決に乗り出した事件の顛末がさらりさらりと描かれています。事件によってはかなり陰惨なものも多く、事件によっては女性が被害者ではなく積極的に加害者であったりするので、普通ならば読後感が悪くなるはずなんですが、筆者の筆運びが巧みでそう感じません。むしろ、深い味わいは残しつつもどぎつい印象はなく、濃淡だけで描かれた水墨画のような淡さを感じます。
 東吾とるいの関係だけは時間を経てもいつみても情熱的で色が濃いのですが、それ以外の時間の流れはあくまで淡々としていて、色々な事件がそのときそのときは彼らの生活に大きな波をもたらしますが、それは決して全体やあとに影響を残しません。分析するに、主人公の剣の力が強いのもそうですが、ヒロインであるところのるい自体もきっぷがいいし小太刀をもってある程度戦うこともできるし、どちらもが経済的に自立しているし、上司による圧力がかからない暮らしをしているといったようなある意味特殊な設定が影響しているのかも知れません。
 普通の時代劇に見えて、実はそうではないのではないかなどと思いつつ最近はこのシリーズを読んでいます。まぁ、面白いということの他はあくまで蛇足の話なんですけれど、たまにはそんなことを考えながら読んでみるのも面白いものです。

山茶花は見た―御宿かわせみ〈4〉 (文春文庫)

山茶花は見た―御宿かわせみ〈4〉 (文春文庫)