小説・漫画好きの感想ブログ

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「レイコちゃんと蒲鉾工場」 北野勇作著

 本年202冊目の紹介本です。
 レイコちゃんと蒲鉾工場。
 タイトルだけ聞くと、中島らもの「ねりもの広告大全」を連想させるが(しないか?)、それでだいたい当たり。
 ねりものという不思議なキーワードがキーになるSF不条理小説がこの本です。主人公の甘酢くんは、蒲鉾工場で働く一工員。だったはずですが、いつの間にやら、上司の豚盛係長と一緒に特殊事件調査検討解決係というものを二人でやるように上司から仰せつかります。いったいどんな事をするのかというと暴走して従業員をさらおうとする蒲鉾を退治したり、深夜の蒲鉾工場に出る不思議な生き物、人間になりかろうとするジンメンから工場を守ったりというような、不条理すぎて頭が痛いながら作品中ではごく当たり前の仕事として描かれる仕事です。どうやら、この世界の蒲鉾は、シリコンの回路と人間や魚・サメの肉をねりあわせて練り物だけにどんなものにも簡単に融合するもののようであり、この世界での蒲鉾板は「2001年 宇宙の旅」のモノリスのようなものであるかのようです。どこかが少しずれた不条理な世界に、我々読者はいやおうなく放り込まれます。
 また、そういう世界において、甘酢氏が知り合う一人の少女レイコ、そしてレイコの母親で喫茶店を経営しているアツコとの時間は奇妙に非現実的であると同時にノスタルジーさえ感じさせるほどにリアルなんですが徐々にその世界も妖しくなっていきます。どこからどこまでが作品世界内での現実でどこからどこまでが妄想や不可思議で不条理な夢なのかが曖昧になっていく感覚、ここいらあたりはちょっとほめ過ぎかもしれませんがカフカにもちょっと通じるものがあります。
 ということで、北野勇作の持ち味が全編に溢れた作品です。レイコちゃんのパートがなくてもいいかなと思わないでもないですが、これがないと逆にちょっとまとまりがなかったり、脆いながらも足場がないような感じになったかもわかりません。
 前作の「ウニバーサルスタジオ」のように、ミッキーマウスやディズニー、USJといったテーマパークを舞台にした訳じゃないので地味ですが、ウニとテーマパークをかけあわせたように、今回はカマボコと工場を組み合わせた本作も結構楽しめました。

レイコちゃんと蒲鉾工場 (光文社文庫)

レイコちゃんと蒲鉾工場 (光文社文庫)