小説・漫画好きの感想ブログ

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「かめくん」 北野勇作著

 北野勇作の最新作が出るという噂を聞き、書店を覗いてみると確かに新刊がありました。「レイコちゃんと蒲鉾工場」というのがそれ。しかし、今は途中で読みさしている本が、大量に生まれてしまっていることもあって、購入を断念、昔の作品を読み返しました(結局読む量の混沌と増大は変わっていないんだけれどねぇ。なにげな抵抗です。でも、その抵抗は新幹線の中で逆向きに歩く様なもので何の意味もない)。
 さて。
 本作は、2001年の記念すべきベストSFであったわけだが、今でも他の追随を許さない日本的な不条理日常SFの元祖という点でもちょっと特殊な作品である。主人公の「かめくん」はその名の通り、カメ型のロボットである。もともとは、彼らは木星で生まれたザリガニ型の怪獣と戦うために作られたはずだが、いつの間にやら地上に氾濫し、それぞれに個性的な暮らしをしている。本作の主人公の一人(一体?)の「かめくん」も、アパートを借り、普段はフォークリフトを使って工場で働き、こたつに入り、猫を飼い、ちょっとかわいい人減の女の子に恋している。
 そんな「かめくん」の日常と、少しずつ歪んだ形を明らかにしていく壊れた世界を描いた作品がこの「かめくん」である。苦手な人はとことん苦手かも知れないが、このちょっと壊れた感覚とブラックなユーモア、でも何故かノスタルジックを感じる雰囲気は、意外なことに「未来世紀ブラジル」のような奇妙な未来SFと不思議にリンクする。
 読み返してみたが、良書。どこまでが現実で、どこまでが妄想で、どこまでがおとぎ話か。北野勇作の典型的なパターンとモチーフが前面に出たこの作品はやはり面白い。

かめくん (徳間デュアル文庫)

かめくん (徳間デュアル文庫)