小説・漫画好きの感想ブログ

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「聖玻璃の山 般若心経を旅する」夢枕獏著 

 半分写真集といった方がいいかも知れません。
 般若心経(いわゆる世間一般でいうところの般若心経の方)の章句のバックに、インドやチベット、ネパール、ヒマラヤの風景や仏像・人々の姿をコラージュしたのがこの本です。般若心経というと、短い中に有名な章句が多いのもあって、よく写経に使われたり、仏教系の私立高校や女子校などでは唱えさせられたりするあれです。  
 釈迦仏教の中では中期から後期にかけての教典で、ギャーテーギャーテーハラギャーテーという真言(マントラ)で締めくくられているものです。いまだにあの仏典というものは、法華経もそうなんですが、ところどころに出てくる真言だけは突然に音写になるのでしょうかね。それまでは梵語をきちんと漢語に訳しているのに、どうしてそこだけ音写になるんでしょうという部分が出てきますよね。あれは不思議です。やっぱり呪文的な形としては、音的に変えないほうがベターという判断があったのでしょうか。
 まぁ。それはさておき、本書は、同じ摩訶般若波羅密多心経を三パターン載せています。
 最初のが世間に流通している分。二つ目が夢枕獏がかなりアレンジして独自の解釈を加えた訳パターン。最後のが戯曲風のパターンとなっています。そしてそのそれぞれの文章の背景にチベットなどの風景や仏像の写真がつきます。内容については、まぁ若干の異論もありつつも、「空」の理論についての端的かつわかりやすい説明は高評価で価値ありですし、そもそもは獏さんは小説家であり表現家なので、それよりはこの本そのものがもっている、どこか違う場所へ気持ちをもっていく感じや、時間の感覚を少し普段と違って感じさせる力にこそ評価があるべきかと思います。
 写真集のようにフルカラーながら690円とお手頃な価格です。

聖玻璃の山―「般若心経」を旅する (小学館文庫)

聖玻璃の山―「般若心経」を旅する (小学館文庫)