小説・漫画好きの感想ブログ

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「水郷から来た女」 平岩弓枝著

 
 御宿かわせみシリーズの三作目です。
 江戸の短篇ミステリ、時代物です。
 奉行所に勤める兄を持つ東吾と、その恋人で宿屋を営むるいを主人公にしたお話。二人の仲ももう極めて安定してしまっているので、捕物帳や人情話のような感じで、のんびりリラックスしていろいろな事件と物語を楽しめます。同じ時代劇で捕り物帳的なシリーズでも宇江佐真理さんの「髪結い伊佐次捕物帳余話」などは主人公同士の関係がときに壊れたり激しく動くのでドキドキしますが、こちらは、わりあいとそのあたりについてはのんびりと読めます。
 もちろん、時代劇にしては珍しいくらいにラブラブで愛情表現が豊かなこの二人のことですから、焼きもちをやいたりするシーンなどは結構多いのですが、それもこれも予定調和的な感じでしょうか。 
 今回も短篇がぎっしりと詰まっていますが一番印象的だったのは、タイトル作品よりも、「秋の七福神」と「風鈴の切れた」という作品。どちらも短い中にミステリらしいトリックがしっかりとできていて、ミステリ的にもいい感じの仕上がりになっていて個人的に好きでした。で、作中でそのまま風鈴が出てくるんですが,考えてみれば風鈴ってここ十年ほど飾ったことがないのにはたと気がついて、今年は風鈴を買ってきました。赤い金魚と青い金魚がガラスの中で涼しげに泳いでいます。
 もうすこししたらやってくる七夕もそうですが、風鈴も含めて、年とともにそうした日常の潤い的なものが最近はちょっと足りていなかったように思います。風情があるという表現をするような行為がちょっと足りていないなぁと思った次第です。 
 時代物を読むと、今よりも人が生き生きと生きているように感じて、生活スタイルは全く違うけれどこんな風な生活を楽しむゆとりは忘れちゃいけないなと感じることがしばしばです。

水郷から来た女―御宿かわせみ 3 (文春文庫)

水郷から来た女―御宿かわせみ 3 (文春文庫)