小説・漫画好きの感想ブログ

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「冬そして夜」S.J.ローザン著

 ビル・スミスと、リディア・チンのコンビが活躍する探偵もののシリーズ最新作。
 このシリーズは、白人の生粋のアメリカ人で大男でタフガイだけれどピアノが趣味である意味非常に繊細なスミスと、中国系の移民の娘で曲がったことが大嫌いで自分の職業に対する家族や親戚たちの無理解に悩みつつも自立しているリディアという対照的な二人が織りなすミステリで、すごく好きなシリーズです。二人はお互いに認め合って、ひかれ合っているものの、できている訳ではなく、人種の壁や価値観の違いに葛藤しつつ、それでもどちらもがお互いに愛情を感じつつも仕事上のパートナーとして組んでいてと、そのあたりの微妙な距離感が読んでいて味があります。また、構成上もそれが生きていて、実は一巻ごとに事件は変わるのは当然、リディアの視点からの事件、スミスの視点からの事件と、主人公も語り口も一巻ごとに交互に切り替わります。これはなかなか他に類を見ないパターンです。
 そういう訳で、作品ごと主人公が交替するこのシリーズですが、今回の主役はビル。彼の事件となります。しかも、今回の事件は、今まで謎とされていて語られなかったビルの過去が語られる事件となっています。
 事件の幕開けは、真夜中にビルが電話で起こされるところから始まります。ニューヨーク市警に窃盗の容疑で逮捕されている少年が自分を呼んでいると知らされたビルは、その少年が、自分の甥のゲイリーであると聞いて驚きます。何故なら、彼は妹夫婦とまったく縁が切れていて、というよりはむしろ妹のヘレンと、主人のスコットから嫌われ、まったく住んでいるところも知らなかったからです。しかし、実際に確認に出向いてみれば、確かに自分の甥のゲイリーでした。
 何のために家出して、何のためにニューヨークに出てきたのかを頑として語らないゲイリー。しかも、翌朝にはゲイリーは窓ガラスを破ってビルの家からも逃げ出してしまいます。ビルはやむなく妹のヘレンの所在を調べ上げ連絡を取り、ゲイリーを探すために彼女らの住む町に行きます。
 そこは、フットボールの都のような地方の小さな街で、一見なんの問題もない街に見えましたが、実は異常な事件が静かに進行しており、ゲイリーはその中で「なにかをなすべきことをしようとしていた」ようです。ビルは、ヘレンやスコットに罵られ疎まれながらも、ゲイリーが自分を頼ったという一事で捜査を開始。ついには死体まで発見してしまいます。そして、じょじょにこの地方の街の異常さを知ることになり、そこにスコットまでもが絡んでいたことを知るのですが、、、
 正直、作品としては傑作だといっていいと思うんですが、日本だとまずあり得ない状況だけに、肌で感じる恐怖というのがたぶん本場のアメリカの人と比べるとかなり感じ方が違っているんだろうと思います。今までいろいろな海外作品で、アメリカではアメフト部員はもう街や学校の憧れの的で英雄でたいていのことは何をしても許されて、まわりの女子もほとんどはそういう男たちの取り巻きになるのがステイタスみたいな描写が出てきました。でも、今ひとつピンとこないながらもだいたいのイメージはもっていましたが、実際問題この作品が成立してしまうということはそれはかなり日本人が思うよりも強固で実際にすごいものがあるのでしょうね。とちょっと脇道で変な感想を持ったりもする作品でした。
 ミステリというよりは、ハードボイルドながら青春や友情ものの要素があって、強いてたとえればちょっと強引ですがスペンサーシリーズの「初秋」のような作品かと思います。つまりは評価高めということです。

冬そして夜 (創元推理文庫)

冬そして夜 (創元推理文庫)