小説・漫画好きの感想ブログ

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「サイコロジカル(上) 兎吊木垓輔の戯言殺し」西尾維新著

 西尾維新の最大の魅力は、読者の推理レベルがどの程度であれ、そこを綺麗に見切った書き方が出来るという矛盾した能力ではないかと思うのですが、この「サイコロジカル」もそういった作品。主人公の戯言遣いのいーちゃんが、繰り広げる推理、思索は、どのくらいの深みに入っていっても難解すぎずさりとて一筋縄ではいかなくて、バランスがよいレベルでキープしていると思われて、ちょっとこういう感覚が他の作家さんではもてないところが自分がこの作家を気にいったところかも知れない。 
 世の中の多数の作家さんのものは、優れた書き手のものであれそうでないであれ、思想的に優れているにせよ最低であるにせよ、主人公や作品世界が提示する謎であったり思索は難しすぎるか簡単すぎるか自分にとってちょうどいいくらいであるのかと一定のレベルを作品中では示すものだけれど、この作家に限ってはその幅が異常に広い。その部分がオリジナリティに溢れているなぁと思う。
 文体それ自体や、思わせぶりに話を中途で残して行くところや、設定の無茶苦茶さとかは作品のあらだと捉える事も可能だけれど、そういうことを問題にさせない十全な魅力がこのシリーズにはあるように思います。
 もちろん、キャラクター造詣も、どちらかといえば漫画的でリアルであることを最初から放棄している上でいえば、好みであるには間違いなんですけれど。
 さて。本作では、主人公のいーちゃん、が玖渚友のかつてのチームメイトで「グリーングリーングリーン」というニックネームで呼ばれていた兎吊木という人物を助け出しに、愛知県の人里離れた
山中にあるマッドサイエンティストの研究所に乗り込んでいくという話です。本来の力からすれば、簡単に脱出というか、なんだってできるはずの兎吊木が捕まっているのかすら分からないのですが、研究所に莫大な資金を注入している玖渚家の娘という特権で彼らは研究所に入り込みます。しかし、博士とは交渉決裂、その夜には殺人事件まで起きてしまい、いーちゃん一行は研究所の地下に閉じ込められてしまいます。
 これ以上はかなりネタバレになってしまいますが、上巻はそんな形で幕開けしますが、なかなかに面白くて一気読みしてしまいました。

サイコロジカル(上) 兎吊木垓輔の戯言殺し (講談社ノベルス)

サイコロジカル(上) 兎吊木垓輔の戯言殺し (講談社ノベルス)