小説・漫画好きの感想ブログ

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「無事、これ名馬」 宇江佐真理著

 昨日に引き続き、時代劇ものです。
 宇江佐真理さんの一冊読み切りの本です。
 主人公の村椿太郎佐衛門は、江戸城卸佑筆の父親を持つ武士の長男、一人息子です。まだ七つになったばっかりの小さい男の子ですが、とにかく泣き虫ですぐに涙をこぼしちゃうし、剣術のほうもからっきしでといった感じの子です。この子が、江戸の男達の中でも一番勇ましい町火消しの頭・吉蔵のところに「男の道」を教えて欲しいと訪ねてきます。
 孫のような年の子にそんなことを頼まれても、と最初は頭を抱えていますが、人柄がよく何でも素直にきく「たろちゃん」とだんだん仲良くなっていき、ぽつりぽつりと自分の思うとこを伝えていくようになります。
 もろちん、吉蔵とて完璧ではないし、むしろ吉蔵には一人娘のお栄が婿をとって結婚したその後でも好きな男のことをどこか思い切れなく悩んでいるのに心悩ませたり、またその想いをかけている相手が将来の自分の組の跡取りになっていくことにも悩んだりと考えることがたくさんです。 
 物語はそんな吉蔵や、娘のお栄、その思い人の金次郎、娘婿の由五郎、お栄の友達のおくみ、などなど市井の人々の群像劇の中で進んでいき、その中で太郎佐衛門は成長していきます。 
 宇江佐さんだけあって、太郎佐衛門のことと、吉蔵一家のことをうまくバランスよく進めていってくれるので、主人公の姿にやきもきしながら、時にほっとしたり、嬉しがったり、登場人物と一緒になって悲喜こもごものいろいろな感情を味わっているうちに最後まで辿り着きます。そして、クライマックスのちょっと前あたりまでくるとそれぞれの登場人物に深く感情移入しちゃっているので、思わず涙ぐみそうになったりすると思います。
 甘いだけでなく、辛い事や苦しい事、どうにもならないやるせないことも、本当にいろいろな事がおきる人生をここまでうまく描いていく手腕には、いつもながら上手いなぁと感心させられます。かなりお勧めの読み切り作品です。

無事、これ名馬 (新潮文庫)

無事、これ名馬 (新潮文庫)