小説・漫画好きの感想ブログ

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「蒲公英草紙 -常野物語」 恩田陸著

 今年の147冊目の紹介本です。 
 恩田陸、「常野物語」のシリーズの文庫最新刊です。
 「常野物語」にはいつも、常野と呼ばれる漂白の一族が出て来ます。彼らは普通の人とは違った能力を(例えばそれは、未来予知だったり、今回登場の一族のように、人の生きていた人生そのものを全て心の中に記憶として刻み込み「しまう」ことが出来る能力だったり)を持っています。彼らは、定住せず各地を歩き、自分たちのなすべきことを為しています。
 今回の舞台は、第二次世界大戦前の絵に描いたような田舎町。庄屋さんとでも言うべき槇村の一家がいて、その家族とともに歩む村人がいて、すべての文化はそのお館に集まり村人にとってはすべての文化や変化や生活のベースがそこにあるような、そんな古き良き時代の日本の農村が舞台です。
 語り手の主人公の少女は、縁があってその親方の末娘の聡子さんと知り合いになります。病気がちで成人までは生きられないと言われていた聡子さんの話し相手として、お屋敷のかかりつけ医の娘で年が近かった彼女が選ばれたのでした。彼女は、聡子さんやその兄さん達、そして槇村の家に出入りする人たちと関わっていきます。その中に、春田さん一家もやがて加わります。
 その春田さん一家こそが、常野の一族なのでした。
 あとは読んでのお楽しみですが、まかり間違っても悪の一族と戦ったりとかそういうベタな展開にはならないのでご安心を。人の気持ちが今よりもまだまっすぐで歪みが少なく、自分が何をすべきかをわかって感じてその為に生きているのが普通だった時代。本当はどこにもそんな時代はないのかも知れないけれど、そうした幻想の中に気持ちよくひたって、どこか心の底のほうから暖かくなってくるような話でした。
 語り手の少女の語り口調も大いに影響していると思いますが、とにかく読んでいてひどく優しい気持ちになる一冊でした。

蒲公英草紙 常野物語 (常野物語) (集英社文庫)

蒲公英草紙 常野物語 (常野物語) (集英社文庫)