「イニシエーション・ラブ」乾くるみ著
乾くるみの、冴えわたる叙述トリック、の一冊。
各書評やブログ書評でも評価が高かった一冊です。
ストーリーは1987年の静岡でのラブストーリー。どちらかと言えば気の弱い大学四年生の主人公「たっくん」が誘い出された合コンで知り合った女の子「まゆちゃん」と知り合って恋をしながら成長していくストーリー。初めて女の子とつきあって、ちょっとずつ変わっていく「たっくん」。最初はどちらかといえばお姉さんキャラだったのが、じょじょに受け身で翻弄されていく方になってしまう「まゆちゃん」。生活の変化とともに徐々に変化していく二人の関係。
当時の風俗や流行歌、流行語が散りばめられているので、自分もそうですが一定以上の年齢の読み手は、読んでいて当時をずいぶん懐かしくリアルに思い出しながら読んでいくことになると思います。自分たちの恋愛を思い出しながら、確かにこんな感じもあったなぁなんてちょっと感傷に浸りながら読んでいくと思います。
しかし、気を抜かないで下さい。
その合間合間に感じる僅かなひっかかり、何かの違和感を大事に進んでいって下さい。でないと、最後の最後で、ラストの2行で起こるとんでもない展開を呆然と眺めることになります。このラストのどんでん返しについては、この小説の場合はネタが割れるとあまりにも読む楽しさがなくなってしまうのでさすがの僕でもネタばれになるような事は避けますが、意外性ということではかなりのものだと思います。自分は、仕掛けとは全然別の感覚的なことでちょっと気付いてしまった部分もありましたが、普通に読んでいたら、絶対に騙されること請け合いでしょう。
そして、惹き文句の通りにもう一回読みたくなる小説です。
なんてことはない青春風俗小説の外見の裏で、よく練った仕掛けのある一冊でした。なるほど皆が人に勧めたくなる一冊です。
- 作者: 乾くるみ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/04
- メディア: 文庫
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