小説・漫画好きの感想ブログ

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「蟹工船」小林多喜二著

 古典的名作でありつつ、今何故かブームだという「蟹工船」。今回はちょっと身構えて読んでみました。
 というのも、この「蟹工船」が最近ブームになっている理由が、他の古典作品のそれとは違ってちょっと特殊だからです。例えば、「最近よく読まれている古典」という括りの中での筆頭株は、なんといっても「カラマーゾフの兄弟」でしょうが、これと「蟹工船」はあまりに違います。前者が全時代の全体小説という今ではなくなった分野のそれであるのに対し、後者の「蟹工船」がいま読まれる理由の一番は、作品中で色濃くでてくるプロレタリアートの存在や格差社会の同時代性故だと言われています。
 直球でわかりやすくいうなら、最近の日本のご時世があまりにも閉塞感にあふれ、格差社会がどんどん進行しているから、読み手の一人一人の人間が「実は自分は搾取される側なのでは」という危機感や恐怖感をもっているからこそ読まれ再評価されているというのが、各社の新聞や雑誌各誌の取り上げ方でしたから、自分もそういうバイアスやある意味偏見的な先入観をもってこの作品を読んだということです。
 で、読んでみた感想でいえば、確かにそれはよくあたっていて、たぶんにカリカチュアされてオーバーに書く事でユーモアがあるように見せているものの、作品世界の中では一般の労働者はあまりに酷い扱いです。うまいこと転がされて、命なんてあってないような扱いを受け、それも自分でなにかを選択するということが出来ないような状況に労働者は否応もなく追い込まれます。展開がかなり強引であったり、あまりに悲惨すぎてかえって笑ってしまう部分もある(例えていえば、昼のメロドラマとかで主人公があまりにも不運すぎるとありえなさすぎて笑ってしまうのに近い)んだけれど、その根っこは笑えない確かに怖い世界で、今の日本はそれに近いとこまで実は追い込まれているのではという感覚が確かにします。
 ばかばかしいと笑ってしまうには、どこか本当に今の日本と通じるものがあって笑えませんでした。まぁ、もともとが面白い小説であると思って読んだわけではないんですが、かなり暗い気分になってしまいました。
 

蟹工船 一九二八・三・一五 (岩波文庫)

蟹工船 一九二八・三・一五 (岩波文庫)