小説・漫画好きの感想ブログ

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「私が語り始めた彼は」 三浦しをん著

 恋愛小説、というのとも少し違う。
 現代小説、純文学というのとも少し違う。
 でも、しんしんと愛について、それも愛の情念というかおどろおどろしい部分というか沈鬱な部分についてこうもやもやと考えさせる本でした。
 構成は、中国古代史が主研究の大学教授、村川融のその周囲の人物たちをメインにした短篇連作集。村川はプレイボーイというわけでもないのですが、周囲の一部の女性達をがっちりと取り込んでしまう魅力があり、離婚し、家を出て再婚して、それでも浮気をやめることはありません。そして、その中でまわりの家族、奥さんや娘さん、息子が苦しみます。その苦しみの中で成長するものは成長し、挫折するものは挫折してしまいます。うちも離婚家庭だったからかも知れないけれど、親が別れる・愛情が保てなかったという家庭にいると、愛についてはひどく考え込んでしまいます。そんなに簡単に心変わりしたり、今までの生活をあっさりと捨てたり忘れたりできるのかなとか、いろいろ思ってしまいます。
 そして、愛なのか連帯なのか、それとも諦念なのか、そういう仲で暮らしている夫婦というのも結構多いのか(いや、口ではそういうこともいうけれど、心の底ではやっぱり家族愛になったにせわ愛は愛で強くあるだろうという幻想があったりするので)なんて色々考えてしまいました。
 特に、三浦しをんという作家に対する自分のイメージが、こういう小説と全然あわなかったので余計に意外感があって考え込んでしまいました(自分が読んできたのが「格闘するものに○」とか「白蛇島」「ロマンス小説の七日間」とかなもので特に)。

私が語りはじめた彼は (新潮文庫)

私が語りはじめた彼は (新潮文庫)