小説・漫画好きの感想ブログ

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「拷問者の影 新しい太陽の書1」 ジーン・ウルフ著

 世界幻想文学大賞受賞作品。  
 表紙にデスノート小畑健のイラストをつけての新装版です。良くも悪くもジャケット買いで売り上げが伸びそうな感じで平積みにされています。もともとが古典として有名な作品ながら手をつけていなかったので、これを機に新作も出るということだしと読んでみました。
 まず、全体的な構造としては長編叙事詩ということで、異世界を舞台に、主人公があちらこちらに遍歴を重ねるというファンタジーの王道を重ねていく基本ラインをしっかり踏襲しています。ただし、すごく特徴的な点が二つあり、それがこの作品の敷居を高くしています。一つには、幻想の部分が極めて強く主人公の独り語りで進んで行く世界について説明らしい説明は数少ないのにも関わらず、奇妙で風変わりで多層重層な世界を主人公が体験していくので、まさに幻想の世界にいるようでちょっと気を抜いたりぼんやりしていると話の筋においていかれそうになります。そうした異世界への浮遊感それ自体はファンタジーとしては優れている証拠なのかもしれませんが、最近のわりあいと易しいファンタジーになれていると骨が折れます。第二に、主人公が拷問者(文字通り、拷問を生業とし人に苦痛を与える力を習得している)という極めて特殊な職業についているため、人によっては感情移入がしがたい部分があるかと思います。
 ただ、この二つの特徴があり敷居が高くはあるのですかけれど、昨今には珍しい異世界ファンタジーをしっかりと読んでいる充実感(このあたりはたぶんに主観が混じっているかも知れませんが)、奇妙ながらかっことした作品世界を旅しているというような感覚が読んでいる間にあり、本を読むという行為を儀式として違う世界を見ているような感覚を与えてくれます。良い悪いは別としてこれは読書の楽しみの根幹部分で極めて優れているように思います。
 そして、はっきりと解説されていないながらもSFでありファンタジーである本書の独特の語彙は、作品世界を優雅に彩っています。ということで、少し敷居が高い作品ではあるものの、このテルミヌス・エストという大剣を携えた拷問者セヴェリアンの物語は順次読んで御紹介していきたいと思います。まずは復刊の四部作。そして新しい太陽の書と続いて行きます。

拷問者の影(新装版 新しい太陽の書1) (ハヤカワ文庫SF)

拷問者の影(新装版 新しい太陽の書1) (ハヤカワ文庫SF)