小説・漫画好きの感想ブログ

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「上海」佐伯泰英著

 交代寄合伊奈衆異聞シリーズの最新刊。文庫書き下ろしです。
 江戸幕府崩壊直前を時代背景にした作品だけに、伊奈の山奥からでてきて藩主といれかわった座光寺藤之助の冒険もいよいよタイトル通りの上海まで枠が広がりました。最初は江戸、それが関東八州、ついで長崎、そしていよいよ海外は清の魔都・上海というのですから、このシリーズの舞台の広がりは留まるところを知りません。 
 なんでもかんでも飲み込んでしまう座光寺藤之助の度量の広さと、彼に恋し肩入れする長崎会所でも力を持つ玲奈の魅力があったればこその話の頃がりですが、ここまでくるとトコトンと歴史を舞台にしての冒険をしてほしいですね。今作の冒険舞台も、アヘン戦争と太平天国の乱の余燼がくすぶったままの上海と趣向が凝りに凝ってますが、このまま巻が進んで行くと大政奉還や明治維新を舞台に彼ら二人の活躍があるかも知れません。ただ剣術が強いというだけでなく、所変われば品変わる、郷に入っては郷に従えの精神で、リボルバーを吊るす、革靴を履く、洋服と羽織袴を自在に使い分ける、もちろんワインも飲めてローストビーフも平気の藤之助。他の剣豪小説では味わえない破天荒な楽しさがあります。
 主人公が強すぎるところがあって、剣術シーンがかえって緊迫感がないというマイナス面もありますが、いい意味でチャンパラ活劇という感じで、堅苦しくなく道徳臭がまったくないこのシリーズはドラマでも見るような感じで楽しめます。
 ところで、今回の解説は、林家木久扇さんが書かれています。木久蔵ラーメンで有名だった、元木久蔵さんなんですが、ここまで流暢な文章がかけることに意外性を感じてしまったのは自分だけでしょうか。

上海 交代寄合伊那衆異聞 (講談社文庫)

上海 交代寄合伊那衆異聞 (講談社文庫)