小説・漫画好きの感想ブログ

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「グイン・サーガ120巻 旅立つマリニア」 栗本薫著

 歴史大河小説グインサーガの最新刊です。
 さて、前巻で古代機械によって記憶の修正をされてしまったグイン。かつての記憶を取り戻しはしたものの、その代わりにアモン戦以降の記憶をなくしてしまったグイン。この記憶の修正によって、グイン・サーガという物語は新しい局面に入ったのか、それともこれは壮大な辻褄合わせの布石なのかとさまざまな憶測が前巻発売後には取り沙汰されました。
 この巻ではそれが明らかになるかと思いましたが、残念ながらこの巻でもそのあたりはまだ不透明です。大きな転換の下準備とも取れるし、やはり辻褄合わせをしっかり行ってきているような感じもしました。その為に、物語は遅れに遅れ、タイス編を思わせ超スローペースとなり、くだんの二人の語りにはくどくどしさを感じた人も多かったかも知れません。
 ただ、そうした準備的説明のおかげで、スーティとのことも含め全ての記憶を失ったグイン・サーガは、辻褄合わせであろうとなかろうと新しい物語的枠組みの布石を打ち終わりました。例えば、ミロク教徒の胎動や、スーティの未来への布石。ケイロニアのグイン皇帝誕生の布石、ヤンダルの表舞台からのいったんの退場、イシュトバーンと沿海州という新たな展開への予感などなど。 
 特に、ヨナの発言は今後の展開を伺わせるキーワードがたくさんありました。であるならば、このスローペースも、いってみれば、今回は調整と物語の踊り場としての予告の巻としてやむなき仕儀だったのかも知れません。
 さて、そうした物語展開もさることながらですが、グイン・サーガファンとしては筆者のあとがきでの病状報告の方がずいぶんと気になっていたと思います。なんとか、膵臓がん手術を乗り越えられ、あまつさえ直後にグイン・サーガの続きをばんばんと書いていてくれたという嬉しい報告がありました。来年には月刊グインなんていう話もまたまた浮上しており、彼女のバイタリティーには頭が下がる思いです。
 早く新刊が読みたいのもやまやまですが、せっかく手術が成功したのですから、無理せず健康を保ちつつ長く書き続けて欲しいものです。