小説・漫画好きの感想ブログ

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「子羊の巣」坂木司著

 ひきこもり探偵の鳥井真一のシリーズ第二作。
 前作に引き続いて「鳥井真一」がホームズ役、友人で語り手の「坂木司」がワトスン役をつとめる、日常の謎をといていく連作短編集です。主人公の鳥井がひきこもりで坂木を主軸にした人間関係しか描けないという特殊設定を活かした本シリーズ、今作でもその特殊設定を十分に引き出せる対人関係がらみの謎解きを前面にだして物語を展開しております。
 夏、秋、冬と季節ごとに一編ずつ話が進み、それぞれの話での登場人物や事件が次の登場人物や事件とつながり展開していく構成の妙も、一つ一つの話の完成度もあいかわらず高いです。わけても、徐々に徐々に真一のひきこもりが緩やかになり、少なくとも対人関係においては、圧倒的に坂木主体、坂木との関係でしか関知しないものの、それでも外界とのつながりを持とうとしていく姿に思わずぐっと拳を握りしめて応援してしまいます。口調や喋り方、価値観の置き方にはまだまだ問題があるかも知れませんが、徐々に回復しています。彼は、小さい時に母親から完全に放棄され、父親との縁も薄く、またいじめにあっていたという過去のせいで完全に精神バランスがおかしい部分が残っていたのが、徐々にそれが取れていく姿は、簡単な言葉で表してはいけませんが感動を与えていると思います。
 ただ、ちょっと気になったのは巻末解説の有栖川有栖さんの解説。
 この鳥井真一のキャラについて「どうしても好きになれない」、また「好きになれないように設定している」という趣旨のことを書かれています。となると、自分の説明だったり感想というのはかなり彼の読み方と離れているんですよね。ブログ書評の中でも「坂木」の性格についてつっこまれているのはよく見かけますが、鳥井については否定的に書かれているところをあまり見ていなかったのが盲点で気付きませんでしたが、やはり読む人によって感想や見方はずいぶんと違うのだという事を再度認識致しました。ひょとしたらこの評価は自分がずいぶんと昔にカウンセリング的な仕事をしていたのと関係しているかも知れません。なので、このレビューはあくまでも個人的な感想になっていますが、その個人的な感想ではこの物語は非常に完成度も高い心温まる作品だと思います。

 追記:タイトルは「仔羊」なんですが、どうみても文庫表紙は山羊に見えてしまうんですが^^

仔羊の巣 (創元推理文庫)

仔羊の巣 (創元推理文庫)