小説・漫画好きの感想ブログ

小説・漫画好きの感想ブログ

「青空の卵」坂木司著 

 創元推理文庫というのは、凄い才能の持ち主を発掘してくるから侮れません。
 北村薫さん、若竹七海さん、山口雅也さん、米澤穂信さん、加納朋子さん、倉知淳さん、笠井潔さん、そしてこの坂木司さん。
 どれも素晴らしいミステリ書きさんで、この創元推理文庫で知った方ばかりです。そして、この方達の作品は(笠井さんは例外として)、日常の謎を短篇連作として発表してゆき、シリーズを通して主人公達が成長していくという共通手法を取られているのですが、そのどれもがよい作品で個人的にはとてもいいなあと思います。
 この「青空の卵」もその系譜を継ぐシリーズの第一集ということで、このあとにも「仔羊の巣」「動物園の鳥」まで三作がリリースされていますが、先が楽しみです。さて、本作の特徴的なところは主人公二人のキャラクター造詣。語り手である坂木司(著者と同名です)は保険会社の外交員、そしてホームズ役の鳥井真一はひきこもりのプログラマーという設定です。ひきこもりというのがミソで、鳥井は母親の不在といじめによって高校から完全に引きこもりとなり普段は自発的に家を一歩も出ることがありませんし、坂木以外の人物との接触は極力避けようとしています。彼にとっては坂木が絶対の世界基準であり、坂木も鳥井との関係において自分をたもっている節があり、お互いがお互いに依存しているある意味アンバランスきわまりない関係を築いています。坂木は、彼のもとに毎日訪れ買い物へ連れ出し(家から数百メートルが鳥井のふだんの移動限界範囲)、夜には食事をとりに通います。そうしなければ、坂木はときにストレスで自我の崩壊の危機にさらされるかも知れないからです。
 こういう不安定な二人ですが、坂木は露悪的ですが基本的にはいい人でありたいと願う人間であり、それが故におせっかいに色々な事件に首をつっこみ、結果としてそれを鳥井が解決するという構造で物語は進んで行きます。そんな二人に関わる事件だからそうなるのか、そういう人物だから彼らと関わることになるのか彼のもとにもたらされる事件は全て、対人関係の問題がその事件の根底にあり、それがきれいに解決されるとき新たな人間関係が関係者のあいだに結ばれるようになります。
 単純にすぎる言い方かもしれませんが、これは「癒し」を真正面から取り上げたミステリかも知れません。
 人によっては、坂木の露悪的な部分が偽善者っぽいものとして映って嫌になるかも知れませんが、個人的にはかなり面白く読ませていただきました。イジメやひきこもりといった扱いにくい問題を真っ正面からとらえて、それを探偵属性の主人公に(過去の秘めたトラウマなどというパターンでなく)まっすぐに組み込んだこの作品は、かなり評価されてしかるべき作品かなと思います。最大評価でお薦めします。
にほんブログ村 本ブログへ.

青空の卵 (創元推理文庫)

青空の卵 (創元推理文庫)

 追記:いろいろな書評をみてきましたが、、、この作品、男同士の純情なつきあい方と過剰な「泣き」がわりとBL系に読めてしまうというのが多かったですね。確かに助六のこともあるし、そう読まれても仕方がないんですが、ね。うん。あと、主人公の性格についてもツッコミが多かったですね。