小説・漫画好きの感想ブログ

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「ティファニーで朝食を」 トルーマン・カポーティ著

 村上春樹訳で送る、あまりに有名な作品「ティファニーで朝食を」です。
 あまりに有名な、と書きましたが逆にあまりにも有名すぎるからでしょうか、実際に読んだことがある人は少ない作品ではないでしょうか。特に、この作品の場合は、オードリー・ヘップバーンの同名映画があって、そののイメージが強すぎるぶん、よけいに改めて小説を読もうという人はより少ない作品かも知れません(自分の場合は実際には映画のほうもちゃんと見たことがありませんでしたが、なんとなく知っている気がして読んでいませんでした)。
 なので、読む前はそんなわけで、村上春樹訳ということだけで手にとってみたんですが、読んでみた感想でいえば、これはやはり名作として残っていくだけの価値のある小説だしこういう作品だったのならもっと早く読んでおけばよかったなというが正直なところです。端的にいえば面白かったし、自分のツボにハマった作品でした。
 主人公は、物書きになることに憧れる青年。ニューヨークのブラウンストーンのアパートメントは、広くもないけれど大都市の生活を満喫できる一部屋。彼は、そこに住みだしてしばらくののち、階下にホリー・ゴライトリーという女性と知り合う。ホリーは、ニューヨークの華を一心に引き受けるような美しい女性で、彼のまわりにはいつもいつもたくさんの男性の取り巻きがいます。そして彼女はそんな男達の間を奔放に飛び回る、不思議な魅力の持ち主。少女のようにも見えるかと思えば、妖艶な女性のようにも見える彼女はさしたる定職についているわけでもないですけれど、裕福でいつもパーティーをしたり、そうかと思えば主人公と飲み歩いたり、ときには万引きをしたりと遊んで暮らしています。そんな彼女に徐々に惹かれていく主人公ですが、彼女には大富豪の婚約者がおり、彼はそれを一歩離れたところから見ているしかできません。親しくなっていくとしても、彼女にとっては彼は唯一の肉親の兄フレッドのような親しい存在の一線を越えることはありません。  
 彼はそんな状況下でも、彼にとってはベストのやり方で彼女に親愛の情を示すのですが、彼女の性格と行動は破滅型で自由にすぎて結果ひどい事態に陥っていきます。

 あとの内容は読んでいただく楽しみがなくなるので省きますが、とにかく文章の切れがいいのと、ホリーの破天荒さ、そして何よりどうしようもない街なんだろうけれどニューヨークがとても魅力的な街に見えてきて、一回は行ってみたいなと思わせる感じとか、やはり名作といわれるだけのパワーがすごくある作品でした。
 そして、面白いのは村上春樹さんの作品に通じる部分、春樹さんに与えた影響がここにあるような気がします。たとえば作品全体の構成や雰囲気でいえば「スプートニクの恋人」を彷彿とさせるし、ホリーの無茶苦茶さとそれを眺める主人公の構図やキャラはどこか「ノルウェイの森」っぽいし、作中にちらりと出てくる日本人カメラマンの「ユニオシ氏」という変わった名前がユミヨシさんに繋がっているのではないかとかそういう事を感じながら読むのもファンとしての楽しみとしてありました。 
 まぁ、そういう村上春樹ファンとしての見地は抜きにしてもいい作品だと思います。お勧めです。

ティファニーで朝食を

ティファニーで朝食を