小説・漫画好きの感想ブログ

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「白い息」 佐藤雅美著

 時代劇です。
 「物書同心居眠り紋蔵シリーズ」の最新作です。居眠り同心という異名をもつ藤木紋次郎という同心は、南町奉行所所属の例繰方同心でした。例繰方同心というのは、いつもは奉行所内にいて江戸時代の刑法民法法典ともいえる「御定書」に沿った過去の判例を探し、犯罪者に対しての処罰などを考える同心で、いわゆる普通の同心(定廻り同心という)と違って岡っ引き・下っ引きを従えない、地味で実入りの少ない役職です。紋次郎は現在でいうところのナルコプレシーという突然に睡魔に襲われる奇病に冒されているものの、持ち前の頭脳でもって過去の判例のことごとくを頭にいれ、事件解決に当たったいました。
 しかし、この作品からは彼は出世して定廻り同心となりました。
 定廻り同心になるということは、部下をたくさん従えるということでもあり彼らの食い扶持も稼がなくてはならないわけですが、自分の持ち場からの付け届けが多くなり、子だくさんの紋蔵はそれでも裕福になり、部下に五両もの褒美を出したりするような以前からは考えられない身分にもなるのですが、、、。
 ファン待望の最新刊では、江戸の町を颯爽と歩き、部下からの報告をきっかけに名推理をして、部下を縦横に扱い、事件を解決していく前巻までとがらりと違った紋蔵の颯爽とした姿を見ることができます。あの、何かというと居眠りをしてしまい、上役に怒られていた紋蔵が、この巻では、本当に一人前の名同心となります。しかも、72人もの部下達の生活を上手く考えながら、一件落着に見えた事件の裏側を推察し、正統な裁きが下るように手をうっていくというかっこよさを見せます。そして、そうしたエンターティナメント性を保持しつつも、佐藤雅美さんならではのきっちりとした時代考証と蘊蓄で、読んでいるだけで江戸のさまざまなことや当時の法運用のあり方などが頭に入ってきます。面白くて、「へぇ」と思う事もたくさん入っていて、まさに素晴らしい出来です。
ただ、惜しむらくは紋蔵がかっこよくなりすぎて、出世しすぎて、あまりにも順風満帆で、かつての冴えない、悩みおおき彼にシンパシーを抱いていたものとしては一抹の寂しさが、、と思っていたらそれも作者の手の上で転がされていただけなのか、ラストに向かっていくに従ってまた一波乱が待っていました。これ以上はねたばれになるので書けませんが、長い間待たせてもらっただけのことはある一冊でした。 

白い息 物書同心居眠り紋蔵 (講談社文庫)

白い息 物書同心居眠り紋蔵 (講談社文庫)