小説・漫画好きの感想ブログ

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「死神の精度」 伊坂幸太郎著

 伊坂幸太郎、この人の作品はいつ読んでも「才能あるなぁ」と素直に感嘆してしまいます。
 本作も「死神」が主人公の連作短編集なんですが、どの一編をとっても出来がよくて、なおかつそれがきっちりと計算され尽くした配置で一冊の本としても奇麗に完結する形になっていて、才能というのはこういう事を言うのだろうなぁと素直にそう思います。瑕疵を見つけることが全くできません。
 あくまで読みやすい文章で、それでいて引用したくなるような警句や言葉がたくさんあって、きちんと小説として完成している。デビュー作からしてそうでしたが、作品数が増加するにつれ、むしろ完成度が上がっていってるのが素晴らしいです。
 さて、べた褒めばかりしていてはレビューにならないのでちょっとばかし説明しますと、今作の主人公は「死神」です。比喩的な意味ではなく、文字通りの死神で、彼は8日後に死ぬ予定になった人物のもとを訪れ、その死を執行してもよいかどうか、殺して「可」か「見送り」かを調査しにくる死神です。この作品世界の死神は、死神世界といえどもいろいろ分野があって、彼は「調査部」に所属している死神で、誰かを恣意的に殺したり、人生の全貌を見ることは出来ません。最大7日間の間、死すべき予定者のそばにいて、死を与えていいか先送りにする見極めるのが仕事です。いわばプロの死神で「デスノート」のリュークなどとはまったく違う存在です。
 そんなビジネスライクな「死神」の彼は、他の死神同様、この世のあらゆる音楽こそは素晴らしいとしつつも、人の生き死にには特段興味がなく、死はなにも特別なこととは考えていないので、死者を前にサービスすることも演出することもなく、ただただ死すべき人間と語り、そばにいてどうするかを決めます。どこかずれていて、妙に生真面目で、それでいて音楽に心から惹かれ、「晴れ」を見た事が数千年ない死神。相手によっては年格好も姿形も変える彼(そもそもずっと「彼」かも不明)を通してみる人間世界は少し悲しく、でも妙にリアルで、ユーモアがあって、面白いです。
 文句なくお勧めの5の5です。
 ちなみに、映画版では金城武が主人公の「死神」を演じるそうです。映画版を見る前に是非読んで欲しいです。

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)