小説・漫画好きの感想ブログ

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「花の歳月」 宮城谷昌光著

 この本は、ずいぶん前に読んでいたつもりだったのですが、実は読んでいない本でした。
 先日、読み返してみようと読み始めてみたら、まったくもってストーリーや登場人物に覚えがありません。かつて読んだ事があった本なら必ず出てくるはずの断片的な記憶すら出てこず、中盤を終えるころになって、さすがにいくら自分がこう忘れっぽい人間であるとしても、これは呼んだ事がなかったんだという結論に至りました。
 きわめて短い本なので、そのまま最後まで一気に読んでしまいました。
 主人公は、荒れ果てた河北の片田舎に住む猗房(イボウ)という少女。彼女は、やがて天子、皇帝の子供を生む運命の少女でした。
 とはいえ、彼女自身はそんな運命を知らず生きていましたし、それを望んでいたわけではありません。彼女はただ極貧の生活の中で、病んだ父や母、そして兄弟たちと毎日を暮らしていました。しかし、彼女は、郷里の長の指名で王室付きの女性として王室に送られた頃から、大いなる運命の変転に操られて、気付いたらいつの間にか、そういう存在になっていたのです。
 ということで、一人の少女の一生を描いたのがこの「花の歳月」という作品なんですが、宮城谷昌光という作家の作品にしてはきわめてライトというか軽い感じの作品になっています。宮城谷昌光の描く小説の主人公といえば、重い運命や境遇から、一生懸命自分というものを磨き、その身を慎み、人間とはいかに生きるべきかを体現することに努力する人というのが通例ですが、この作品の場合は、作品そのものが短いことや戦闘や実際の政治の場があるわけではないので、あくまで淡々と少女の半生を描いているという感じで他の作品とはかなり感触が違います。
 彼女の兄弟たちの人生も含めて、どれもが淡々と描かれていて、脂の乗り切った大興奮の小説であると同時に滋味豊かな人生の指南書でもあるような宮城谷作品をスタンダードレベルと考えると、この作品は全ての面で、残念ながらちょっと物足りなく感じました。童話のような感じでこれはこれでありと思いますし、決して作品の質が悪いわけではないのですが、短篇ということで自ずと感触が違います。
 なので、宮城谷作品を読んだことがない人が最初にこれを読んじゃうと宮城谷さんの小説というものに対するイメージががらっと変わってしまいそうなので、できたら最初にこれを読むのは避けた方がいいと思います。
 

花の歳月 (講談社文庫)

花の歳月 (講談社文庫)