「生ける屍の死」 山口雅也著
ミステリの歴史に残る傑作ではないかと個人的に思う一冊なので、あえて本棚の奥から紹介のために出てきました。山口雅也氏、最近ではちょっと新作の刊行ペースが落ちていますが、「キッドビストルズ」シリーズのようなパンクの衣装を着込んだ名探偵が活躍する異色シリーズを出していたり、なかなか興味深いミステリ作家さんです。
さて、この「生ける屍の死」も、かなり異色のミステリです。
というのも、この作品、死体が生き返ってしまうのです。それも複数。普通、ミステリものでは誰が誰をどんな理由で殺したか、どんな方法で殺害したかを解決していくものですが、それもこれも大前提として、死体が何も語らず推理で謎をといていくしかないというところにポイントがあります。しかし、この作品では死者は甦ってしまうのです。ということは、顔を見られた状態で殺されたら、あるいはそれとわかる方法で殺されたら、犯人はわかってしまうのです。死体が生き返る。それだけで通常のミステリの法則は通りません。
もう一つ、殺してしまう理由の最大のものである、被害者の排除ということが死体が甦ってしまうとできません。殺して財産を独り占めにすることも、殺して自分が何かを独占することもできません。これはミステリとしてかなり足かせです。よくも物語にここまでのしばりを入れたものだなと感心するほどです。
なのに、きちんとミステリとして(それも非常に優れたミステリとして)成立していること、そして登場人物がきっちりと描けていること等が自分がこの本を傑作として推す理由です。思いつきのアイデア勝負ではなく、ミステリとしての面白さを加え、なおかつボリューム的にも読み応えのあるこの一冊。ミステリ好きなら是非いつか読んでみて欲しいです。
- 作者: 山口雅也
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1996/02
- メディア: 文庫
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