小説・漫画好きの感想ブログ

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「月の裏側」 恩田陸著 

 恩田陸の古めの作品ながら、機会があって読み返しました。
 ジャック・フィニィの「盗まれた街」について本文中に言及があるように、氏へのオマージュ的作品です。
 舞台は、九州の水郷都市である、箭納倉。
 知り合いの元大学教授の協一郎の招きに応じてこの街にやってきた多聞という不思議な青年。彼は、ここで三件の失踪事件の話を協一郎から聞くことになります。失踪していたのは、いずれも箭納倉の街を縦横にはしる掘割に面した日本家屋に住む老女たち。そして、不思議な共通点はさらにもう一つ、彼女らは一週間ほどでじきにひょっこりと戻ってきていたのです。ただし、失踪当時の記憶を失ったまま。
 誘拐なのか、新興宗教による洗脳なのか、それとも徘徊? いずれも腑に落ちず、矛盾をはらみます。そして、多聞はそれらの事件を調べるうちに協一郎の弟夫婦も失踪し帰って来ていたことを知ります。そして、協一郎がこう言います。「彼らは彼らじゃないんだよ」と。
 一度失踪して帰って来た時には他人になっている。俄には信じがたいことながら、多聞の前にはその証拠が次々と挙げられていきます。多聞は腹をくくってその調査にのめりこんでいきますが、事態はこくこくと深刻の度を増してゆきます。。。
 ということで、かなり怖いホラーです。人がゆっくりと消え、そして帰ってくる。帰ってきた彼らは何者なのか、そしてそれを行っているものはなにか? まわりを全て水に囲まれた水郷都市の箭納倉で起こる恐怖の物語は、登場人物がクールで少し変わった人物だからこそ押さえ気味押さえ気味に進んでいきますが、それ故に余計に恐怖は増幅していきます。一気読みするつもりはありませんでしたが思わず一気読みしてしまいました。
 是非読んでほしい作品です。
 数ある恩田陸作品の中でも「六番目の小夜子」や「夜のピクニック」「ねじの回転」同様にトップクラスの作品で5の5とします。
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月の裏側 (幻冬舎文庫)

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