小説・漫画好きの感想ブログ

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「東京奇譚集」 村上春樹著

 こんばんは、樽井です。
 じわじわと読書感想を書いています。
 部屋の片付けを年末に向けてやりながらです。何かとこのシーズンは年末に向けてやることが多いですね。ゴミもそうだけれど服もそうだし、なにかと色々です。家族と住んでいると何もしなくていいけれど、一人でいるとあれこれ大変です。 
 
 東京奇譚集」 村上春樹

 
 村上春樹の小説としては文庫最新刊です(エッセイとしては「走ることについて語るときに僕の語ること」の方が新しいです)。村上春樹本人が前書きのような形で登場してから始める始まり方は、「回転木馬のデッドヒート」を思い出します。内容の方もそれに近く、奇妙な味わいのある話が五編納められています。
 「偶然の旅人」「ハナレイ・ベイ」「どこであれそれが見つかりそうな場所で」「日々移動する腎臓のかたちをした石」「品川猿」という五つですが、前半四つはまったくのあり得ない話でもなく、さりとて日常的かといわれればもちろん違う、そういう不思議なバランスの上になりたった作品で、うまく伝わる人、伝わらない人が絶対に出てくるし、また体調によってもすんなりとそれが受け入れられるとき、受け入れられないときがある、そういう微妙な感じの作品集です。これは決して出来が悪いわけではなく、そういう趣きの話だと最初に村上春樹氏が断りを入れているので、こういうテイストを最初から狙っていると受け取るべきだと思われます。
 例えば、偶然の旅人はとことんシンプルにいえば共時性を扱っているわけですが、これも人によっては「そういう事があるなぁ」「不思議なこともあるね」ととる人もいれば「だから?」と取る人がいるでしょう。続いての「ハナレイ・ベイ」も、息子の死の現場にやってきた母と、彼女が会う二人のサーファーからもちらされる情報を前に「それはありえる」という人もいれば「ありえない」という人もいるでしょうし、下手したら「何がいいたいの?」という人もいるでしょう。でも、そういう奇跡でもなければ単なる偶然よりやや上の不思議なうっすらと何かが伝わってくるラインというのが今回の村上春樹氏の狙いなのだとすれば、それは逆に大成功していると思います。
 ただ、そのような書き方やラインは、ともすればエンターティナメント性や盛り上がりに欠ける部分もたしかにあり、自分もこれがハードカバーで出た時にはあんまり評価していなかったくらいです(今回読み直して、ぐっと迫る部分があって、同じ読者に対しても時期によって効果が違う短編集なんだと再認識しました)。だから一般受けするか、とか、村上春樹を初めて読む人にお勧めか? ときかれたらそういうのとは違うという作品だと思います。
 これは、ときどき取り出して何かのおりに読んでみて(それもできれば一定年齢以上の人が)何か感じる本だと思います。だから、逆に若い世代でこれを読んでイマイチと感じた人もファンも、十年くらい寝かして読むとまた違った何かを届けてくれると思いますのでそれまで本棚に置いておいて欲しい本です。
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東京奇譚集 (新潮文庫)

東京奇譚集 (新潮文庫)