小説・漫画好きの感想ブログ

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「密偵ファルコ 一人きりの法廷」 リンゼイ・ディヴィウス著

 
 こんばんは、樽井です。 
 映画の「300」のDVDを見ながら、ちょっと書く気が出て来たのでひさびさに読書感想などを書いてみます。


 「密偵ファルコ 一人きりの法廷」 リンゼイ・ディヴィウス著

 古代ローマを舞台にしたミステリー、密偵ファルコシリーズの最新作です。
 前作ではローマを離れ、遥か遠方ブリタニア(今のイギリスですね)まで家族総出で仕事に出ていたファルコ一家。ようやくローマに帰って来て、簡単な仕事から復帰とおもいきやいきなりローマらしいといえばローマらしい大訴訟合戦に巻き込まれてしまいます。標的にされているのは、とあるローマの元老院貴族。息子が造営官という仕事をしているのをいいことに、父親がゼネコンから大量に賄賂をもらっていたという今の時代にもありそうな収賄事件で訴えられていた父親が死亡。自殺であれば、財産の没収等が免除されていたローマでは、こういう訴訟になると財産を家族に残す為に自殺することもしばしばあったそうで、最初はそうかと思われていたが、実は自殺ではないのではいないか、しかも家族が彼を殺したのではないかとローマでも有名な弁護士が立場を次々に入れ替えながら、この貴族一家を訴訟の対象にしていきます。古代ローマでは、裁判に勝てば財産の没収分の中から多くが弁護士のものとなるので、弁護士はすきあらば名前を売るため、自分の莫大な利益のために訴訟を起こしていきます。その餌食にされかかっているのがこの家族なのです。しかも、どうやら弁護士たちは裏でつるんでいる様子。
 事件に偶然かかわってしまったファルコはちょっとした義侠心といきがかり上から、こちらも裁判を起こして死亡した貴族の息子を助けようとするのですが、、、。
 ということで、密偵ファルコシリーズ、今回はがらりといつもと趣きを変えて、法廷ミステリーを繰り広げます。
 とはいえ、主人公は今までと同じく肉体派のファルコですから、そうスマートな物語にはなりません。弁護士と張り合うのはそもそも荷が重すぎだし、海千山千の弁護士やどうしたわけだか妙に隠し事の多い家族が相手という勝手の違う世界では、ファルコの持ち味や強さも発揮できません。むしろ彼は神経をくたくたにすり減らします。しかし、妻のヘレナやその兄弟たちを仲間にしても、それでも今回は特になかなか真実には辿り着けず、逆にひどい負債を負う羽目になってしまいます。やはり、慣れないことをするものではありません。
 作中の彼らの結果自体もそうだし、小説としての面白さや完成度の方も、法廷ミステリーで挑んでみたものの、不完全燃焼という感じになってしまっています。もともとが面白いシリーズだけに、こういう新しい試みもありといえばありなんですが、たまたまこの一冊をファルコのシリーズの最初に選んでしまうと、ファルコシリーズってそんなに面白くないかもと思われるのではないかなという出来です。なのでお勧め度は低めの5の2でいきます。
 
 

一人きりの法廷 (光文社文庫)

一人きりの法廷 (光文社文庫)