小説・漫画好きの感想ブログ

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「鴉」 摩耶雄嵩著 

 摩耶さんのちょっと古めの本なのですが、この本、素朴に結構面白かったです。主人公はカイン。自分の弟のアベルの失踪と死の謎を追って、彼はアベルが死の半年前に住んでいたという人里離れた秘境の村に赴きます。どんな地図にも載っていない、戸籍すら誰ももっていないのではないだろうかというような寒村に辿り着いた瞬間、鴉の大軍に襲われるカイン。
 彼は、文明の流れに取り残された(あ、、、ちなみにこのお話、カインとアベルなんていう聖書に出てくるような名前が出てきていますが、現代日本のお話です)ようなこの村で、最初は自分の正体を隠したまま、後にはやむなく少しずつ自分の正体を明らかにしながら弟の死の謎にせまっていきます。が。。。。この時代錯誤のまるで天皇が直接村を支配しているような村では彼が村に辿り着いて以来、次々と殺人事件が起こってしまいます。
 この村では殺人を起こした者の手には痣が浮かび上がると堅く信じられており、殺人などあり得ないはずなのに、次々と人が殺されてゆくのです。そのため、弟の失踪の謎をじっくりと探ろうとしていたカインは思いとは裏腹に殺人の疑惑を一身に集めてしまいます。
 そんな彼の前に現れる摩耶雄嵩ワールドの銘探偵メルカトル鮎。住民
の全てが和服を着ており、時計の存在すら知らないようなそんな村にタキシードにシルクハットという異様な出で立ちで現れた彼は、謎の言葉をカインに投げかけます。
 真相はすぐそこにありますよ。。。
 
 てなことで、かなり大仕掛けが施されたこの本格幻想ミステリは、正統派探偵小説として読んでも幻想小説として読んでもかなり楽しめる作品です。象徴的な台詞回しや道具立てが、最後にはぴたりとそこしかないとい
う所ににはまっていくのを読むのは愉悦的という他はありません。
 ただし、この大仕掛けのトリック、作者がその言葉を入れるか入れないかでかなり悩んだであろうその一言をたまたま目にした人には前半で全ての謎がとけてしまう可能性があります。だから、楽しみたければあんまり細部にこだわり過ぎないことをお薦めします。
 できうれば流れと景色を楽しみながら読んで下さい。
 なかなかいい本格推理物です。
 お薦め度は5の4です。
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鴉 (幻冬舎文庫)

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