小説・漫画好きの感想ブログ

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「王妃の離婚」 佐藤賢一著 

  「別れよう」なんて一言で片がつくのは恋人時代までの話で、もし結婚してしまっていたら、「別れたい」と切り出すのは結構大変なことになる。どちらが悪いかをひたすらあげつらいあって、慰謝料の算定や、財産の分割などどろどろとしたことがえんえんと数年間続くこともしばしば。
 大変な事態が起こってしまう。子供でもいればもちろんそれは更にひどい事態になる。結婚率と出生率の低下にはそのへんの事情もあるのではと考えたくなるくらいです。それでも、現代ならばそれはそれで制度として離婚はありうるものとし
て社会のコンセンサスがある程度あるから、しようと思えばまだやりようはある。しかし、これが二百年も前の、カトリックの教えが世界を席巻していたヨーロッパともなると、なかなか上手くいかないし、ましてやそれが王族の離婚ともなると、法王庁の直轄の仕事で他の誰にもてきないことでした。
 そんなわけで、百年戦争の終わりあたりに起きた、フランス王による王妃への離婚訴訟はなかなかどうして難しい問題だったのです。ゴリ押しで世間は納得させられても、宗教的に離婚の正統性を認めて貰えなければ、場合によってはすべての権威を失墜させられてしまうかも知れなかったのです。
 当事のカトリックの教えでは、近親相姦であった場合、肉体的に実質上の性生活が出来ない場合、まだ「清い」ままの結婚生活である場合、強制された結婚である場合、こういうケースでなければ結婚できないとされていたのです。
 しかし、この時点で、フランス王は、王妃と結婚して既に12年もたっており、いずれのケースもあてはまりません。しかし、彼は堂々とこれを主張。証人を作って、離婚を認めさせる一歩手前まで進んでいました。
 そこへ立ち上がったのが、フランスのカルチェ・ラタンでかつて天才学僧の名をほしいままにしていたフランソワという学生。彼は、徹底した反権威主義者であり、バリバリの論客でした。今でこそ過去の哀しい事件の為にナントの片田舎で弁護士をしていましたが、その腕の冴えは未だに衰えていませんでした。彼は、衆人監視の中で貶められ、孤立無援の王妃のために敢然と立ち上がって、王に法による戦いを始めました。
 いや、これが面白いのなんの。
 痛快であり、法廷劇としても楽しく、そして、フランソワの過去に関する徐々に語られる物語も面白く大満足の一冊でした。読みごたえといい、興奮度といい、文句ない出来です。佐藤賢一氏の本は「傭兵ピエール」「赤目のジャック」「ジャガーになった男」などどれも面白いですが、これも傑作です。
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王妃の離婚 (集英社文庫)

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