小説・漫画好きの感想ブログ

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グイン・サーガ117巻「暁の脱出」 栗本薫著

 先月もグイン、今月もグイン。そして来月もグイン。
 栗本薫さん、がんがん書いていますので、けっこう早いサイクルでグイン・サーガの紹介がまわってきます。恒例の前置きですが、グイン・サーガファン以外の方にとってはわかんない話だと思います。そして、若干のネタバレを含んでいますので、ご注意。
 さて。
 
 グイン・サーガ117巻「暁の脱出」 栗本薫

 今回のグイン・サーガは前回で予告されていた長きにわたる「タイス篇」の最終巻になっておりました。ひょっとしたら、まだ何かどんでん返しがあって長引くんではないかと少しだけ危惧していましたが、さすがにそれはなく、つつがなく「タイス篇」は終了いたしました。グインがパロへ行く間の「寄り道」だったとあとがきで作者も書いていますが、寄り道もいよいよ終わり、グインはタイスを出ることになります。
 なので大筋は予想通りなんですが、問題のその脱出迄の過程ですが、そこがひさかたぶりの読みどころでした。
 たぶん今までこの「タイス篇」をずっと読んでいた人は、みんないつしか作者の叙述トリックにはまりこんでいたと思うのです。「どうやったらタイス伯爵の目をごまかして脱出するか」といろんなパターンを考えていたと思いますが、そのどれもが計算したかしなかったかは別として栗本薫氏の作中での主人公達の状況や描写からかなり難しい条件をクリアしなければならないものとしてあれこれ考えていたと思うんですが、それはかなり意外というか変則的な形で達成されます。まぁ、そういうひねりがなければ、あまりに予定調和すぎるので面白くもなんともなかったわけで、そういう意味では前回のガンダルの予想外の素顔同様にきちんと物語として意外性を提供していました。 
 もっとも、それをご都合主義ととるか、見事な伏線の数々ととるか、それは人それぞれだろうと思うし、僕自身は長い物語の中でいつしか伏線ができていた、というかたくさんのタイス長逗留の間にできた様々なエピソード(例えばタリクの恋、マーロールの出自、水牢の伝説、マリウスのフローラ落とし、ガンダルとの死闘、闘技場への国民全員の陶酔)や条件がうまく合致した図らずもの解決だったというふうに作者の腕半分偶然半分と取っています。このあたりをどう取るかで、この解決にいたるまでを長過ぎで無意味と取るか、物語としてはたしかにこれで整合すると取るかがこの一冊はかなり評価が別れると思います。
 ただ、この巻を客観的に見てみると、この巻ではそれぞれの登場人物が物語の進行を優先しすぎたためか、それぞれのシーンでのキャラクターの動きや喋り、行動が少しうすっぺらくなっているのではないかと思われます。
 次の巻からの新展開は、そこを改善して、昔のようにスリリングかつ人物造詣がしっかりあって物語がきっちりと展開するグイン・サーガになればと期待します。皆さんもそう思いませんか?