妖怪ハンター 諸星大二郎著
京極夏彦の妖怪シリーズにはまった後にまとまって読み始めたのがこの諸星大二郎のシリーズです。
妖怪とか、日本の神話の生き物自体は小さい時から割合と好きでしたが、それらがけっこう不気味に描かれているこのシリーズは、作品のタッチとあいまってあとあとまで奇妙な読後感を引き起こします。構成的には、異端の民族学者の稗田礼次郎が日本の各地での民話や伝承を集めているうちに巻き込まれる奇妙な出来事という形で、独立した短編集になっており、どこから読んでも構わない構成になっています。ですから気のむくままに古本屋などで見かけたものから適当に読んでいっても構いません。というよりは、そういうなんとなくで読むのがこの漫画の一番の読み方のような気がします。
ところで、この漫画、タイトルは「妖怪ハンター」といさましいですが、実際には妖怪を退治したり倒したりすることはほとんどありません。妖怪が出て来たり超常現象が起こったりする現場に常に居合わせる稗田礼次郎ではありますが、彼自身には特殊な能力がないからです。
普通、漫画でそういう超自然ものをやるのであれば、主人公にはなにがしかの超能力がありそうなものですが、彼にはそれがありません。だから、いつもその現場に立ち会うだけで、時にはその事件の本当の意味や謎解きなどもできません。ただただ立ち会い伝えるのが仕事のようになっていて、そういう意味ではカタルシスがあまりない漫画といえるかも知れません。しかし、そうしたありようがあきらかに稗田礼次郎のネーミングの元になった古事記を編纂するにあたっての稗田阿礼を思い起こさせて、非常に奥が深い感じがしたりもします。また、変な解決がないところが民族学的なあれこれをイメージさせたりという効果も出しています。だいたいが民俗学者というと、解釈を語るのが主流なのに彼はあまりそういうことすらしません。ただただ立ち会います。そしてそれが必然のような不思議な雰囲気をもっています。
あと、絵だけをみれば、今の時流の絵ではなく、あきらかに時代を感じさせる、悪く言えば古いタッチですが、それもまた作品には非常にマッチしていて、読んでその世界に入り込むといきなり古い時代にいるような気がしてきます。そういう意味では希有な漫画家さんであるとも言えるでしょう。
沢田研二主演、竹中直人怪演で「妖怪ハンター ヒルコ」という作品もありますが、こちらはまぁ別物と思って見て下さい。けっこうスプラッタホラーにしてあるんだけれど、中途半端にギャグがたくさん入っているし、それをジュリーにやらせるのはどうも無理があるんですよねぇ。。。。
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/11/18
- メディア: 文庫
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