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「幸福な食卓」 瀬尾まいこ著


 「幸福な食卓」 瀬尾まいこ

 きっかけは、よく遊びにいかせていただくブログでのこの本の紹介記事でした。僕にとっては、この本が初めての瀬尾まいこ著作の本なので、なんの予備知識も偏見もなく読ませてもらいました。そして、その結果の感想はというと、正直、すごく混乱しています。
 他のレビュアーの方の評価が高いのもまさに納得の仕上がり具合で、家族というテーマ、魅力的な登場人物、安定した語り、うまくまとめられてしっかりと構成、読みやすい暖かい文体と文章。それらはまさにその通りで、いい作家を見つけたという幸せな感触を与えてくれました。特に気持ちよく文章を読ませる力というのはずば抜けて高い方のようで、ほぼ一気に読ませられましたが読み疲れするようなところが皆無でした。
 でも、何かが少しひっかかるのでした。
 「父さんは、今日で父さんを辞めようと思う」
 このフレーズから始まる家庭内部の不可思議な関係がそもそもの不思議のはじまり。実は、父、母、兄、本人の4人家族は家族というくくりでいえばかなり関係が一般のそれとは違います。父親の自殺を契機に家を出て近所のアパートで一人暮らしを始めた母。超天才児だったのがいきなり勉強を捨てて有機野菜を作っている兄。突然教職をやめて受験勉強を始めた父。そして、唯一いわゆる世間一般からすると良い子の妹は、みな気持ち悪いくらい仲がよくて、じゃれるくらいの喧嘩はあっても、本気での大げんかやとっつかみあいの喧嘩や冷めきった関係なんてありえないくらいに互いを思いやり、それを隠す事もない本当に仲のよい関係です。でも、それは普通一般の家族という概念からするとやはり大きく崩れているし、誰かが何かのトラブルを抱えたときの対処もやはり何かが違う感じがするのです。
 でも、読んでいるぶんには、こんなに優しく本気が悪意のかけらもなく接する周囲の人たちがすごく羨ましいくらいなのです。でも、何かが違う、ような気がするのです。
 四章構成の連作短編が、一つの大きな長編作品となっていて、主人公は小学生から高校二年生までの時間を過ごしていきます。気だてのよい主人公の成長に、読み手は気持ちよく感情移入していきますが、最終章に起こる突然の出来事に主人公と同じような衝撃と混乱を覚えることなると思います。人生とはそういうことも起こりうるわけだし、前半に伏線は張られています、でも、ここにきて(小説的には必然であるとしても)のその展開に激しく心が乱れます。
 繰り返しになりますが、作品としてはよく出来ていると思います。小説としての完成度に関しては瑕疵が見当たりません。感情を揺さぶるのが小説であるとするならばそこも満点です。でも、読んでいてどこかに違和感が残ります。それがなんなのか、何度も何度も家族について考えさせられることになった一冊です。
 読んで損はない一冊です。

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幸福な食卓 (講談社文庫)

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