小説・漫画好きの感想ブログ

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「半島を出よ(下)」 村上龍著

 「半島を出よ」続きです。
 上巻に引き続いての紹介ですが、前半では絡んでこなかったはぐれものグループ(実は彼らは「昭和歌謡大全集」に登場したメンバーだったようです)が物語に大きく絡んできます。上巻までは、九州を極めて効果的に被害ゼロで武力制圧した北朝鮮の特殊コマンドの前にあまりにも情けなく支配されてしまう福岡の人々と日本政府の無能さがあまりに悲しい一冊でしたが、この巻ではそのシチュエーションの上に、さらに北朝鮮から12万人の特殊部隊が日本にむけて出航するというシチュエーションが加わります。
 果たして日本はこのまま北朝鮮によって九州全土を制圧されてしまうのか、アメリカ・中国はそのまま事後承認して日本を見捨てるのかという大きな物語と、北朝鮮コマンドが日本の文化や人間、そして彼らから見たら無駄に贅沢が氾濫する物質文明に対して全体としては規律を守りつつも個人がおかしくなっていく姿が描かれ、そこにさきほどのメンバーたちが絡んできます。
 大きな物語、個人の物語、それらがクロスする中での数日が描かれており、非常に読み応えがある一冊になっており、個人的には村上龍を再評価する一冊となりました。正直にいって何を考えているのかがどうにもわからない北朝鮮という国、そこで特殊部隊兵士として生きていく人たちのよりわからない感情を、我々が理解できるレベルの人間像に無理矢理おとし込んでいく力技は村上龍はやはり凄いなと改めて思いましたね。国としての姿形は違うけれど、本当は人間なんだから同じような感覚感情をもっているんだ、みたいな簡単な造詣ではなく、同じ部分もありながらやはり本質的なところで生まれや暮らしから別の感性・感覚をもっていることもしっかり描いていて、そこが深みになっていました。北朝鮮の特殊部隊が日本に上陸、九州を制圧なんていう無茶苦茶な話が荒唐無稽な話にならずに住んだのはこのあたりの人物描写があったればこそでしょう。
 上巻と下巻を比べると上巻のほうが面白さでは勝っていて、物語の展開もどうしても後半少しイージーになってしまっていますが、それでも十二分に許容範囲、面白かったです。

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)